つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

映画『夜明けのすべて』

原作は、瀬尾まいこ2020年刊行の小説。

主人公・藤沢さん(上白石萌音は、重度のPMS月経前症候群)により、就職した会社で度々トラブルになり、会社を退職する。

その5年後、藤沢さんは移動式プラネタリウム製作会社の中小企業に勤めている。職場の隣の席には、大手企業から転職してきたばかりの山添君(松村北斗がいる。山添君は、パニック障害だったことが分かる。

最初は反発し合いながらも、お互い同志のような気持が芽生えてくる。

周囲の人々と緩く関わり合いながら、社会生活に自信を失っていた二人の心にも、徐々に変化が訪れ…。というストーリー展開。

 

映画や本の感想を書くときに、「心温まる」という言葉を私は多用し過ぎてる気がする。でもこの作品は、本当に、心にじんわり染み入ってくるような、優しさに溢れるとても温かい作品だったのだ。

社長役の光石研はじめ、社員ふくめ登場人物や会社の雰囲気全て温かくて。

その社長や、山添君の元上司も、実は大きな喪失感を抱えていて、自死遺族で作るグループコミニュティに参加していて、知り合い同志なのが分かって来る。

辛い経験をしたからこそ、相手の辛さを想像したり推し量ることができ、人にも優しく出来るのだろうし、それが会社の雰囲気にも反映されているように思えた。

若い二人を温かく見守る社長役の、光石研さんが特に良かった。

朝ドラ『エール』での父親役で、幽霊姿で娘の前に登場したコミカルな場面も思い出した。

同じく久保田魔希さん演じる、職場の先輩も良かったな。

この会社を紹介する映像を作るため、度々インタビューしに来る、二人の中学生の場面もほのぼのしていて。そのインタビューを受ける社員一人一人の受け答えも、ドキュメンタリーのようにとても自然で好感が持てた。

 

パニック障害になったことがある友人や、友達の家族がそうだったりで、それまで話は色々聞いていても、症状はそれぞれ違うことなど、PMSという名称含め、この映画で初めて知ることも多かった。

どんな病気でも、本当の辛さは、当人だけにしか分からないものだけど、映画を観ていて、相手の病気を理解しようとする姿勢、温かく見守る、その程よい距離感が伝わって来て、それは大切なことだなと感じた。

「人は分かり合えないものだけど、3回に1回くらいは助けられるかも知れない。」という、山添君の言葉も心に残った。

この二人だけでなく、登場人物それぞれの程よい距離感が観ていて常に心地よかったし、二人の演技もとても自然で好感が持て、始終引き込まれた。

山添君が自転車で走る場面で、その後ろ姿での、優しい光に溶け込むような映像の美しさも心に残った。

また、話の終盤、移動プラネタリウム場面で、藤沢さんが担当するナレーションの内容が、その上白石萌音さんの声と共に心にしみ入って来た。

社長の亡くなった弟自身がナレーションを務めていたその時の気持ちや、著者が「夜明けのすべて」という作品タイトルに込めた思いも伝わって来て。

観ながら何となく想像していた終わり方ではなく、最後はちょっと寂しさを感じたけど、エンディングでの会社の日常の風景も、やさしい光に包まれたような爽やかさで、こんな会社に勤めてみたいとしみじみ思った。

私も学生時代、似たような会社でのバイト経験があるけど、パートのおばさん達が幅利かせていて、あまり居心地は良くなかったけどなぁ。笑

 

移動式プラネタリウムといえば、私も数年前、図書館の秋の星座イベントで、ホールでの移動プラネタリウムを皆で体験したことを思い出し懐かしかった。その時の読み聞かせでは、一人一人星にまつわる絵本を読んだのだった。

 

静かで、余韻がずっと残るとてもいい作品だった。

特に今、様々なことで傷ついている方々にもおすすめで、心身の滋養になるようなそんな癒される作品。

 

その前に観た映画の感想を途中まで書いてあったのだけど、今回の作品をもっと多くの方に知って頂きたく、先にUPしました。

先日の日曜に観に行き、映画館内は結構混みあっていたのに、この作品の入りはそうでもなくて、せっかく良い映画なのに残念だったので。

この作品を、ブログコメント欄で薦めて下さったsmokyさん、ありがとうございました。同じ三宅唱監督作品である、もう一つのオススメ映画『ケイコ目を澄ませて』も、機会があったら観てみたいです。

と、思って今購読リストを確認したら、smokyさんも映画の感想を先ほどUPされていました。

川本三郎著『「男はつらいよ」を旅する』〜三宅唱監督『夜明けのすべて』。 - かぶとむし日記 (hatenablog.com)

共感した部分が似ていて嬉しかったです♪ご覧になった方皆さん同じように感じるのではと思いますが。

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余談ですが…

「夜明け」と聞くと、先日Eテレで観た『積極的感受』というタイトルの、ドリアン助川さんのドキュメンタリー番組を思い出しました。

ドリアンさんが辛かった時代、一日のうちで、夜明け前が一番精神的にきつかったそうです。

『積極的感受』とは、どうしようもなくなった気分の時に、「ふと道端で咲く花に目が留まるときがあり、その花から、応援されているような気分になる。そのとき、その花はもう自分の人生の一部になっている。」

という感じで、自然界にある全てのものその言葉を、自分をアンテナのようにして感じ、聴いたり、受け入れていくことだそうで。そしてそれは、いつか何かに繋がっていくのだそうです。

その番組で紹介していた、ドリアンさんが書かれた小説『あん』での一節も心に響きました。

私たちはこの世を観るために、聞くために生まれてきた。

この世は、ただそれだけを望んでいた。

映画化された『あん』も、気になりつつ観ていなくて、こちらも改めて観てみたいと思いました。