つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『あの光』(香月由香・著)~気になった秋のあの匂い

主人公は、薄給のハウスクリーニング会社に勤める、30代の高岡紅。 

とても丁寧な仕事ぶりで、顧客からの信頼が厚い。ある日水商売をしている母親からの勧めで、独立して起業を決意する。

その仕事は順調に進み、新たな事業「開運お掃除サービス」も立ち上げ、オンラインサロンや、そのセミナーも開設したりする。

こうして紅はこの会での教祖的存在になるけれど、暴走する会員も現れて…

というストーリ展開。

 

特に玄関やトイレを念入りに掃除すると、運がよくなると聞いたことあるし、掃除で開運って、実際にもありそうだ。

紅は高校時代、演劇部で脚本を書いていた。

その自分が書いた劇で、急遽、女王役の代役で出演することになる。

劇中、兵士たちが悲しみの中、すがるように自分を見つめるその眼差しに、女王役の紅は、励ましたいという衝動にかられ、

「今のまま運命に踏みにじられたままでいいのか?こんなところにあなたたちは閉じ込められているべきでない。今すぐ立ち上がって、この石牢を破るのよ。」

と訴え、この時に感じた光や、その恍惚感をずっと忘れられないでいる。

この台詞が後に、自分のセミナーにおいて、会員に向けて熱弁を振るうときの常套文句となり、セミナーでもカリスマ的存在になっていく。

最初は地道に仕事をしていた紅が、信者のような会員から熱烈な支持を受けたり、軌道を逸していく過程が興味深かった。

紅は、演劇での女王役のときのように、自分の光で皆を照らしたかったのだとも感じた。

この作品は、承認要求や自己啓発に潜む闇がテーマになっているようだ。

作中、紅が投げやりに言う、「愛は売り物で、ただのプロジェクト。」「こういったセミナー講師も、どこかの教祖も、みんなそれっぽい空気を醸し出すテクニックを知っていて、信者を酔わせているだけ。」という台詞からもそれを感じ、実際そんなセミナーも結構あるのかも知れない。

紅の弁が立つのは、母親譲りでもある。でもその母親から愛されなかった紅には、愛が分からないから、自分のセミナーでは必死で愛をばらまくふりをしてきた。それでも、伝わるものはゼロではないのだと感じる。

話の終盤、母親に対する呪縛から解き放たれたように、自身の中にある光を発見できたことで、読んでいるこちらも救われた気分になった。

 

季節を感じる匂いについて

ところで、この物語を読んでいて、以下の一文に思わず惹きつけられた。

「わずかに開いた窓から吹き込む夜風には、秋の終わりのような焚火みたいな寂しい匂いが混ざっている。」

私も、その焚火のような煙の匂いを、秋の夕暮れ時など感じることがあり、その度に懐かしく、どこから漂ってくるのだろうと不思議に思っていた。

秋に感じる匂いというと、「金木犀」の香りが一般的だと思うけど、この「焚火みたいな匂い」は、私も主人公のように、晩秋のしかも夕暮れ時に感じるのだ。

(この本を読んだのも昨年の11月だった。)

なのでこれを機に、ネットで調べてみたら、こちらのブログに興味深いことが書かれていた。

k-takahasi.com

この記事の筆者も、「秋であれば、枯葉や木を燃やした後のような、焦げた匂いを感じます。」とあり、さらに、「日本官能評価学会」から「においに対する感受性と年齢及び食嗜好との関係」というものが発表されているのだそう。それによると、

匂いに対する感受性は、単に嗅覚器官の感受性に依存するものでは無いこと。私たちの体験や経験、あるいは訓練や学習が関与することで決定される思考や、識別能力と密接な関係にあることを示す。

匂いは、記憶と密接に関係しているというのは、私も前からよく聞く話だけれど、このことから、この筆者が感じた秋の焦げた匂いというのは、昔保育園の園庭で、焚火で焼き芋を焼いたときの匂いだと思い至ったそう。

私が秋にこの匂いを感じたときに思い出すのは、昔京都の大原や奈良など、のどかな風景の中を歩いている時、野焼きのような煙が上がっていたその匂いや情景で、だから私が感じるこの匂いも、この時の記憶から呼び起こされたものなのだろうか?

でもこの記事によると、季節の匂いとは、大まかには自然環境が発する匂いだそうだ。なのでやはり、どこか自然が多い場所から「野焼き」や「焚き木」の匂いが、はるばる風に乗って飛んでくるのではないかと思う。小説の筆者も同じ匂いを感じているくらいだから。

それから、この焚き木の匂いを感じると思い出すのは、奈良や大原などの里山の風景とともに、昔教科書に載っていた「万葉集」のこちらの歌。「万葉集」に詳しいわけではないけど、何故かこの歌だけは覚えていて脳裏を過るのです。

大和には 群山あれど 

とりよろふ 天の香具山 

登り立ち 国見をすれば 

国原は 煙立ち立つ

海原は かまめ立ち立つ 

うまし国そ 蜻蛉(あきづ)島 大和の国は

舒明天皇

家々の炊事場から立ち上る、煙のことも表現されているからなのかも知れない。

春は、沈丁花の花の香りがすると、春だなぁと思うけど、夏や冬だと何の匂いだろう…そういえば、初めて雪国に住んだ人が、雪にも匂いがあるのを知ったという文をこの間何かで読んた。

わりと強く漂ってくる菜の花の匂いも、その黄色い色からもまさに春を感じる。

ということで…(*^▽^*)

菜の花畑ふくめ、先月下旬に千葉・外房の鴨川へ行ったときの写真を最後にUPします。

鴨川にある「菜の花ロード」は無料で見学できる。一面の菜の花畑、とても綺麗だった。二百円で菜の花摘みも出来、ここの野菜販売所での野菜などは新鮮で、近くにあった「道の駅」よりも安価でした。

「誕生寺」

「鯛の浦」すぐそばにあり、日蓮聖人」生誕の地として建立されたお寺。

過去に何度かこの近辺に旅行に来たことがあったのけど、寄ってみたのは今回が初めて。こんなに大きく立派なお寺とはびっくりだった。

日蓮聖人御幼像」

日蓮は、2021年2月16日に生誕800年を迎えたそう。

日蓮というと数年前に読んだ法華経・誰でもブッダになれる」にも登場していたのを思い出した。

本堂などの建物内も、撮影OKだったので、バチバチ撮ってしまった。

本堂内陣の天井で、仏教植物の天井画82枚が描かれていたのも見応えがあった。

 

 

ジブリ映画に出て来るような風景だと有名になった、「濃溝の滝・亀岩の洞窟」。鴨川に行く途中の、君津市にあります。

観光客に人気の、洞窟の穴から朝日が水面に差し込む写真がきれいに撮影できるのは、3月や9月の早朝だそう。

この看板の写真のように、斜めに差し込む光が水面に反射し、ハートのような形に見えるとのこと。私が行ったのはその時期でなくて残念(^▽^;)

ちょっとしたハイキングコースになってます。

 

菜の花を摘んで来て2週間以上経ちますが、まだ綺麗です。

今週はとても暖かく、まさに春のような陽気ですね!