どちらも図書館の新刊案内にあり、予約して先月初旬に読んでみました。
『空想の海』(深緑野分・著)
11編からなる短編集。
表紙の絵は、最初の『海』の世界観を表していた。
著者の小説は初めてだけど、作品ごとに、その世界観ががらっと変わっている点が独特だった。内容により好みは分かれたけれど、特に心に残った3作品の感想を。
『髪を編む』
大学生の妹の髪をいつも編み込んであげる姉の話。
何気ない日常が、姉妹関係を通して描かれていていて、ちょっと面白い。
特に姉の心情がよく伝わってきて心に残った。
姉と違い私は、一度も髪を伸ばしたことがなかったので、姉や母に髪を編んでもらった経験もない。
「まったく、これだから末っ子ってやつは」という、ちゃっかりした妹に対する姉の台詞が出てくるけれど、私が育った環境に限っては、この台詞は当てはまらない。
と、自分の記憶の中ではそう思っているけれど、姉は姉でまた、私とは違うように感じているのだろうな。三つ編みをして笑っている、小さい頃の姉の写真が目に浮かんだ。
『カドクラさん』
ミノルという少年が主人公の話。
たまに入れる銭湯も、夜行列車もぎゅうぎゅう詰め。
戦争が激しくなってきたので、遠縁のカドクラさんの所へ疎開する。
手の指が部分的にないカドクラさんは、前の戦争で活躍した人と、ミノルは母親から聞いている。
非国民だと言われているカドクラさんの家にいるためか、ミノルは疎開先の学校でいじめに遭う…
てっきり、第二次世界大戦中の話かと思ったら、どうやら、未来に起こる戦争の話なのが分かってくる。
「ああ、我々は本当に、また失敗してしまったんだなぁ。」
「まさか、生きているうちに、また戦争になるとは思わなかった。」
というカドクラさんの後悔の念が伝わってくる箇所で、私自身何とも居心地の悪い気分にかられた。
母がミノルに言った「こんなことになってしまって、ごめんなさいね。」という言葉にも。
多くの人がそうだと思うけど、コロナ禍に続き、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、いつも漠然とした不安が頭の中にある。
もし近い将来日本も戦争に巻き込まれ、息子たちが徴兵にとられる事態になったときに、親の私は一体どこまで抵抗できるのだろう。
国外へ脱出している今のロシアの若者たちみたいに、徴兵にとられる前に国外脱出を勧めたくなると思う。どこかの国で生き延びて欲しいと願う。
けれどいくら危険でも、隣国などに避難した人々が、次第にキーウに戻るようになったのは、離れ離れの家族の元へ戻りたいのももちろん、生活の基盤がキーウにあるからなのだろうな。
以前テレビで、フォトグラファー小松由佳さんの、「生きる根を見つめて」というドキュメンタリー番組を観てもそう思った。
シリア難民キャンプを取材している小松さんの、
「爆撃がなくてもここには生活が無い。生活を続けていくことは、命の尊厳に繋がっていくこと。」との言葉が心に残っている。
避難した国での生活が軌道に乗らない場合は、なおさらだろうな。
この物語を読んで、そんな思いが頭の中をグルグル駆け巡った。
「勝ったら、他の国の人を殺すことも、正しくなってしまう。」
「誰もが勝ち負けにこだわっているうちは、戦争はいつまでも続くんだ。」
「人間には大切なものを守るために戦うべきときもある。でも必ず立ち止まってよく考えなさい。その怒りや拳は、本当にみんなを幸せにするのかと。」
などの、カドクラさんの言葉も心に残った。
『緑の子どもたち』
「壁も天井も植物で覆われたその家は、熱い風が吹くたび、葉がいっせいにこすれ合って、ざわざわ、さらさらという音でいっぱいになる。」
風や葉の音と共に、それらの情景が脳裏に浮かんでくるような描写に、冒頭から引き込まれた。
そこは、壁も天井も穴だらけだけれど住み心地はいい。
その家には、主人公の「あたし」以外に3人の子供が住み着いている。
それぞれ全く異なる、身体的特徴から「赤」「銀」「チビ」と、主人公は呼んでいる。
お互い意味が通じない、異なった言葉を話す4人。
だから口をきかないし、お互い敵対意識を持っていて、一部屋を4等分しそれぞれのテリトリーで過ごす。
この物語の舞台は、戦後の廃墟のように思える。
昼間は暑すぎ、夜は危険な大人や猛獣がいつ襲ってくるかもわからないので、道具や食べ物は、朝外で調達する。
以上のことからも、過酷な生活が伺われる。
ある日、4人とも憧れていた、外にあった持ち主の分からない自転車が盗まれてしまう。それから、言葉の通じない4人が力を合わせ、部品をかき集めて自転車を作ることになる。
皆で作る過程も良かったし、ラストで、不格好でも完成した自転車の音と、4人の笑い声が重なると、「聞いたこともない音楽になった。」という箇所に心打たれた。
言葉の通じない4人とは、国同士のようにも思えた。
ラストではまた、子供の頃、土手の前に住んでいた友達の自転車を借りて、一緒に土手の坂で自転車に乗る練習をして、補助輪無しで乗れるようになった思い出が蘇ってきた。
『明日も一日きみを見てる』(角田光代・著)
作家・角田光代さんが、愛猫トトとの日々の暮らしの中で起きた、小さな事件を中心に描かれているエッセイ。『今日も一日きみを見てた』の続編。
漫画家、西原理恵子さんの家で2010年に生まれたトト(女の子)は、生後3か月で角田さんの家にやってきた。
どの章も、トトへの愛が前面に伝わって来て、ほのぼのとした気分になった。
トトの鳴き声も場面場面でそれぞれ特徴があって面白い。
クラッキングと呼ばれる「かかかか」という鳴き声は、獲物や得体の知れないものを見たときに出す音で、飼い主に警告を伝える意味もあるのだとか。へぇー。
トトや、外猫とらちゃんなどの可愛い写真も満載。
猫は光が眩しく、明るいと眠れないから、目を手で覆いながら寝ている写真もとても可愛い。
トトは本能的に、自分っぽく可愛いものを敵視する傾向にあるというのも笑える。
一番好きなおもちゃは「ニャンビーム」と呼ばれる、猫用レーザーポインターだそう。そんなのがあるのか。
猫と暮らすようになって一番変わったのは、自分の中の幸福感だそう。
「昨日と同じ今日、今日と同じ明日を繰り返していきたい。それこそが幸福だと思うよになった。」という気持ち、動物を飼っていなくてもとても共感できた。
こちらは、猫好きブロ友さんたちがUPされる、可愛い猫ちゃんたちにも思いを馳せながら読了しました。