つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『美しき人生』(蓮見圭一・著)~人生とは何か?

ジョージ・ハリスンの好きな曲と同じタイトルの小説が、図書館の新着図書にあり、良さそうだったので、予約して今月初めに読んでみました。

フリーライターである阿久津哲也が、この話のナビゲーター的役割で、小説の中心となる主人公は、阿久津の息子が通う高校の校長である真壁純。

話の冒頭、阿久津は、別れた妻が暮らしている沼津市へ、息子・哲の高校の卒業式に出席するため、長崎から羽田へ向かう。

この最終便機内での、ちょっとした温かいエピソードにも、思わず目頭が熱くなった。

 

息子の卒業式では、会場に人がいっぱいで阿久津は驚く。

それは、過去卒業していった卒業生たちも毎年卒業式に押しかけるほど、真壁の祝辞が人を惹きつけて止まない魅力があったから。

自身の想い出を含め語る、その校長の話に阿久津もひきつけられ、手掛けているラジオ番組で紹介しようと、真壁に取材を申し込む。

そこから、それまでの真壁の人生が切々と語られていく。

 

真壁の両親は、母親がお産で、父親の車で病院に向かう途中、交通事故で二人とも亡くなってしまう。

母親のお腹の中にいた真壁は、父方祖母の、なんとしても助けて欲しいとの希望で、帝王切開で生まれ、北海道・岩内の父方の実家に引き取られ、祖母と伯父夫婦に育てられる。

積丹半島の付け根にある岩内は、何もない淋しい町であっても、中2の2学期まで住んでいたその場所は、真壁にとって忘れ難い心のふるさとでもある。

その岩内の中学に、東京から転校してきた美少女の水島明子に、真壁は一目惚れをする。

育ての親だった祖母が亡くなったことがきっかけで、3学期からは、母方の実家である沼津で暮らすようになる。

 

この物語は、明子との切ない恋や、真壁の青春時代中心に描かれているのだけど、明子をはじめ真壁の友人たちなど、周囲の個性豊かな登場人物たちの、その魅力的な人柄もよく伝わって来た。友人たちとのエピソードで、笑ってしまう場面も多々あって。

 

真壁が経済的に苦しく、大学進学を諦めていた時に助けてくれた、近所の内科医である村松先生もその一人。

資金援助の申し出に、借りても返せる自信が無いという真壁に、村井先生は「そのお金をいつ返せと言った。」と、真壁がいつか他の人を助けてあげれば、それで良いと言ってくれる。

この部分で、親切などの行為は、循環されたり繋がっていくという考えを思い出した。

以前読んだ、『白ゆき紅ばら』(寺地はるな・著)でも、印象に残るそんな場面があった。

主人公を助けてくれた学校の担任が、その主人公に対して、いつか余裕ができたときに、今度はあなたが誰かに手を貸してあげて、と言う。

それは巡り巡って、自分の娘が困った時、誰かが助けてくれるはずだと。

私もそういう世界を信じている。

自分が笑えば、それは地球の裏側の人にも波及していくということも。

こういう現象、「バタフライ効果」っていうんでしたっけね。

 

また真壁が中2の冬、祖母が亡くなる前に泊村のその施設へ、突風が吹く雪道の中、明子と一緒に訪ねていくのだけど、そのときの担当医の言葉も、その情景も心に深く残った。

この時の描写も他の場面でも、冬の北海道の自然の厳しさがよく伝わってきた。

岩内での場面は、私も数年前に訪れた、美しい積丹半島を思い出しながら読んだし、他にも訪れたことがある、丸山公園や北海道大学など懐かしかったけれど、私が知っている北海道は、季節の良い夏の観光地だけなんだなぁとつくづく感じた。

 

生まれた時から、決して平凡ではない困難な道を歩んできた真壁だけれど、読んでいて、これら周囲の人々に出会えて本当に良かったし、まさに奇蹟に近い出会いだと思う。

真壁と明子二人の、ひたむきな愛が胸を打つ物語でもあるので、青春時代のほろ苦い恋の想い出に思いを馳せる人は多いのではないかな。特に、作者や主人公と同じ男性読者にとっては、より共感できるのでは…

 

「若い人の時間は限られている。しかも大事な時間はほとんど一瞬です。極限すればそれが人生だという気さえする。」

「あれこれ迷い過ぎて無駄にした時間を自分はバカだったとは思うけど、それもまた大事な人生の時間だったとも思う。」

真壁のこのどちらの言葉も、自分もとても共感出来た。

「きみがいまどこにいようと、そこが出口だ。」

という、インド宗教家であるカビールの言葉も良かったな。

 

ジョージ・ハリスンの「What is Life(美しき人生)」以外でも、作中私にとっても、青春時代好きだった懐かしい曲が色々登場していた。

映画「サタディ・ナイト・フィーバー」挿入歌での、ディスコ曲ではなく、ビージーズのバラード「How deep is your love?」や、ミニ・リパートンの「ラビング・ユー」。シンディ・ローパーの「トゥルー・カラー」など。

この「トゥルー・カラー」は、まるで真壁のことを歌っているようだと明子は思い、この歌から連想されるヘンリー・ミラーの言葉を真壁に贈る。

「目の前に広がる人生にもっと興味を持ちなさい。人々、物事、文字、音楽…」と、素敵な言葉が続いていく。

 

作中、ジョージ・ハリスンに関してはその名がちょっと登場しただけだけど、真壁はジョン・レノンと同じ丸いサングラスをかけていたり、「世の中は、ジョン・レノンのように意外なカップルの組み合わせが多い。」などの台詞があったりで、作者はビートルズファンなのだろうと感じた。

 

ジョージのラブソング「What is Life」、人生とは何か?

この曲からは、「人生とは、愛だ。」とのジョージの気持ちが伝わって来る。

この物語も、まさにそのことを強調しているように思えた。

そして、真壁の話を聞いた、阿久津自身の人生にも影響が及んでいくところも心に残った。

 

書店で、同じく蓮見圭一のベストセラーとなったデビュー作、『水曜の朝、午前三時』の文庫本が平積みされていたので、思わず買ってしまった。

このタイトルは、サイモン&ガーファンクルの曲と同じ。

他にも著者の作品を調べたら、ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』というタイトルなどもあったので、著者は好きな曲をタイトルにすることが多いのかも知れない。

 

youtu.be

アニメの楽しい動画がありました♪

 

youtu.be

こちらのMVは、2014年ボックスセットを発売するにあたり、ジョージの奥さんであるオリビアと、息子のダーニが開催した、この曲のミュージックビデオコンテストで優勝した作品だそう。

出演女性は、プロのバレエダンサーとのこと。まさに踊り出したくなるような、明るくポップな曲ですよね!

オリビア・ニュートン・ジョンも、カバーしていましたね♪