つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

 『カフネ』(阿部暁子・著)

読んで良かったと思える、とてもいい物語だった。

食べることや、生き方についても、大切なことが色々書かれていて。

 

主人公は、法務局に勤める41歳の野宮薫子

薫子は、愛する夫との離婚など辛い出来事に参っていたところ、さらに、年の離れた最愛の弟・晴彦が急死してしまう。

家族だけでなく、誰からも愛されていた晴彦。

その弟が遺した遺言書から、弟の意思を叶えてあげたいと、弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。(遺言書といっても、晴彦は自然死という診断。)

 

生真面目過ぎて、よく人から面倒がられてしまう性格の、薫子。

冷たく素っ気ない態度の、せつな。

二人の相性は最悪に見えたけれど、その場で倒れてしまった薫子に、せつなは家まで送り届け、滋養のある美味しい食事を作ってあげる。

そのとき、せつなは「カフネ」という、家事代行サービス会社に勤めていることが分かる。

やがて薫子は、「カフネ」が休日に行っているボランティアである、困っている家庭を助ける活動に参加することに。

片付けが得意な薫子と、料理上手なせつなは、絶妙なコンビとなり、他人の部屋を片付け、感謝されるうちに、薫子もどんどん元気を取り戻していく。

 

「カフネ」とは、ポルトガル語で「愛しい人の髪に指を絡める仕草」を表すとのこと。日本語に訳すのが難しいニュアンスの言葉だそう。

「カフネ」代表の斗季子がこの会社を立ち上げた時、斗季子はダブルワークをしながら、双子の子をワンオペで育てていた。

家に帰って、もう眠っている子供たちの髪を触りながら、同じように忙し過ぎて心を失いかけている人たちが、こんな時間を持てるようにする仕事をしたいと思い付けた名前。

「家事は待ったなしで、決して終わりはない。手が回らなくなって一度放置すると、もう一人ではどうにもできない状況に陥ってしまう。」という台詞も心に残った。

 

最初は冷たい性格に思えたせつなも、実は人の気持ちを察することに長けた、気遣いのできる人柄なのも伝わって来た。

せつなが手際よく作る料理の数々も、どれもとても美味しそうで、読みながら料理が得意なブロ友さんたちのことが、次々思い浮かんできた。

私でもそうだから、この本を読んだ人はきっと、せつなが作る料理を作りたくなると思う。

 

例えば、青森の郷土料理である「卵味噌」は、甘い味噌と卵を混ぜて煮詰めたものだそう。あったかいご飯やおにぎりによく合うとのこと。

(先日、「おにぎりと(赤だし)味噌汁が自分のソウルフード」と書かれていたよんばばさんのブログにて、「まさに私も!」と思いました。)

ボランティアで訪ねた家にいた、生きることに悲観的な小学5年の女の子に対し、せつなは、「おにぎりが作れるようになると、人生の戦闘力が上がるよ。」と話し、おにぎりの作り方を教える。

「健康じゃないと生きるのは難しくなる。なるべく快適に生きるためにも栄養は必要。」

「どんな人にとっても、お腹が空いていることと、寝起きする場所でくつろげないことはだめです。」などの言葉も心に残った。

 

そしてこれらの台詞から、2・3か月前にテレビで観たこちらの、NHK再放送の番組を思い出した。

www2.nhk.or.jp

居場所を失い非行に走る子供たちに自宅を開放し、「非行の根っこには、空腹がある。」と、30年以上食べることで支えてきた、広島の元保護司・中本忠子さん82歳の話だ。

その番組での最後に、今現在の中本さんも映り、さらに高齢になられても近所の仲間と共に、お元気で活動を続けられていて凄いなと思った。(思っているだけではだめだとは、自分も感じるのだけど…)

 

後半は、予想もしなかった意外な事実が次々分かって来て、涙腺崩壊だった。

せつな自身や、晴彦が抱えていた事情やその志などが分かってきた辺りから、それらの思いが胸に迫って来て。

 

薫子が家事代行ボランティアで訪ねた、夫を介護している高齢女性の話も心に残った。

かつては、人道支援医療団体で働いていたというその女性。

自分より困っている人はもっとたくさんいるはずだし、ずっと助けを求めることを躊躇していた。世の中から困っている人は延々にいなくならないからと。

なぜ危険で過酷なその生き方を選んだのかという薫子の質問に対し、その女性は、「最初は夫に一目ぼれして、海外まで追いかけてきたのだけど…。」と前置きし、

「現地で現実を見てしまったからには、そこで自分の力を尽くすしかなかった。誰かが泣いている時、『助けたい』という気持ちは誰もが持っているし、そう信じている。」と。

だから、気づいたらもう、自分の子を持つことも忘れていたくらい活動に没頭してきたというそのご夫妻。

危険な紛争地などへ支援に赴く方々は、きっと自分がやらなければという気持ちに突き動かされるのだろうと私も感じてはいたけれど、この女性の話にも頭が下がる思いだった。

 

他に感じたことは、最初は薫子のキャラクターがあまり好きではなかったのだけど、読んでいるうちに好感が持ててきて、親との葛藤を抱えているその思いなども色々共感できた。

 

その前に読んだ本や絵本の感想も、下書きに残っているのだけど、先月読んだこちらがより心に響いたので、先にUPしました。

 

今年も川沿いの道に、彼岸花が少し咲いているのを見ることができました。


* *

前回、頂いた海外のお土産のことも書きましたが、今年の夏は珍しく、海外からのお土産を他の方からももらったのでした。

6年ほど前にボランティア先で知り合い、日本語の勉強をずっと続けているアメリカ人女性の友達が、8年ぶりに故郷であるミシガン州へ帰国し、お土産にTシャツを買ってきてくれました。

(この形は、ミシガン州の形を表しているそうです。)

ミシガン州は緯度が札幌と同じだそうで、日本に来た時、夏の暑さにびっくりしたそうです。

ミシガン州での滞在先からは、車で40分も走ればカナダに着くとのこと。それも羨ましいなと思いました。

その女性Mさんの両親は、早くに離婚をしそれぞれ別の家庭を持ち、そのお子さんたちもいるので、Mさんが子供たちと久しぶりに帰って来るとのことで、滞在していたお兄さんの家に、親族一同20人以上集まったのだそうです。フロリダやテキサスなどからも。その和気あいあいとした、楽しそうな写真にも圧倒されました。

日本だったら、離婚した夫婦それぞれの家族が一堂に会するって、滅多にないのではないでしょうか。冠婚葬祭以外では…。

滞在していた、自然豊かなお兄さんちの、直ぐそばで見かけたという鹿の写真が素敵だったので、今度ブログに乗せたいからと送ってもらいました。

検索したら、オジロジカみたいです。

デトロイト市内で撮ったという、この鳥の名前は分かりませんでした。^^;