つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『あきらめる』(山崎ナオコーラ・著)~あきらめることは明らかにすること

毎回主人公が入れ替わる、連作短編集。

各章を追うごとに、その関係性が明らかになって来る。

作品舞台は、近未来で、火星移住者がいる時代。

といっても、地球での暮らしは今とほぼ変わらずで、読んでいて違和感はなく、主人公たちの悩みも普遍的だ。

 

主な登場人物は、中高年である雄大。(この時代、雄大など若めの高齢者は「成熟者」と呼ばれている。)

雄大と同じマンションに住む、母子の

輝が公園で友達になる同じく4歳の、トラノジョウ。その母親ユキ

画家として成功して親や世間から認められたかった、孤独を抱える博士、ほか。

主人公たちが、何かの思いを「あきらめる」ことによって、また新たな気づきを手に入れることが出来るような物語。

読後感がとても爽やかで余韻が残り、出合えて良かったと思える小説だった。

 

「あきらめる」という言葉は、古語は「あきらむ」といわれ、「明らかにする」が語源だったそう。平安時代では、「物事をよく見る」「心の中をあかす」といった、明るい意味で使われていたのだそうだ。

「先ずは、『あきらめる』それで、あきらめ切れないことが見えてくる。そこから始まるんだ。」

物語の登場人物たちも、様々な困難な事情や悩み抱えていて、それらが明らかになっていく。

 

この小説からは、こうなったらもっと生きやすい世の中になるのに、という考えが色々提示されているように感じた。

自分で出来そうもないことは諦めて、周囲に助けを求めることが大切だということも。

 

「自分を明らかにするとは、自分がちっぽけな存在だと残念がることではない。大きすぎると自覚することだ。自分の存在は、大きすぎてコントロールできないと自覚し諦めることだ。」

自分はちっぽけな人間だと思うことはよくあっても、大きすぎる人間だと自覚することなんて、考えたこともなかったけど、心とは自分の中には納まり切れないほど大きく、宇宙そのものだと何かで読んだことがあったっけ。

「この川は俺だ。俺は全てなんだ。この空も、この宇宙も全てが俺だ。」

「家が小さくたって辛くない。この見える景色、全部が俺の家だと思えばいいのだから。見ただけで自分のものになる。俺の目はそういう目だ。」

と思える目を持てば、自分の想像力で、いくらでも庭の広い広大な家に住んでいると思えるのだなぁ。

人類には、「恋愛好きな人」「恋愛には全く興味が無い人」、「母性」という言葉や性別に関わらず、単に「子供を育てたい人」が一定数いる。

恋愛したい人が恋愛し、したくない人はしない。産みたい人が産んで、産みたくない人は産まない。育てたい人が育て、育てたくない人は育てない。

そういう社会だったら、生きやすい。

今の社会では、それを全部自分一人でやらないと、「自分勝手」とか「無責任」だと批判される。

言われてみれば、確かにそうかも知れない。

例えば、「母親になったら誰でも母性が備わっている」という世間の感覚に苦しめられている母親はたくさんいると思う。

逆に、この作品に出て来る登場人物のように、恋愛には全く興味がないけれど、自分の子でなくても、子育てだけをしたいって人ももちろんいると思う。それには、この物語にもあったように、社会的なサポートが欠かせないと思うけど。

 

この作品の時代は、地球での人類存続の難しさを、専門家が盛んに訴えるようになり、火星への移住を多くの先進国が政府主導で推し進めていて、今は12期の応募中。

火星移住希望者は、最初こそ富裕層が多かったけれど、地球での暮らしに行き詰まりを覚えた人が乗ることの方が多くなってきている。

成熟者(中高年)と、7歳以下の子どもとその家族は、優先的に火星へ行かれる時代になっている。

地球での暮らしに行き詰まりを感じている登場人物たちも、火星移住を希望するようになって…。

物語後半は、火星での移住生活についても詳しく描かれていて、地球を飛び立ち火星までのロケット内での4か月間の生活も含め、読んでいて色々興味深かった。

 

赤でなく、恐ろしいほど青く輝き美しいという、火星の夕焼け。

エベレストの2倍以上という高さの火星の「オリンポス山」。

読んでいると、それらを実際目の当たりにしてみたくなる。といっても、赤茶けた火星より、緑豊かで青く美しい地球にいつまでも人類が住めたらいいのだけど…。

 

登場人物の中で、何者にもなれず、どこにも所属できなかったけれど、最後に自分の人生を見つけることができたと思えた、博士の気持ちが一番心に残った。そう思えることが一番幸せなことだと思う。

 

表紙の絵も、この物語の世界観を上手く表していて素敵だった。

4歳児の龍とトランジョウが作っている砂場での山は、火星の「オリンポス山」。

川沿いの道を、博士の分身でもあるロボットが散歩をしている。

青く美しい鳥は、同じく川沿いの道を「孤独散歩」をするのが日課だった、雄大が見つけた「カワセミ」。

この本を読み終わって、何故かふとこの曲が頭の中に流れていた。

NHKの「ファミリー・ヒストリー」をちょうど観ていたからではないけれど…^^;

その番組テーマ曲で使われている、くるり「Remember me」

くるり」の曲は、「ばらの花」から好きになり、ライブも一度、2011年3月頭の武道館公演に行ったことがあり、当時はよく聴いていた。

ドラムでは、「ロックンロール」を演奏してみたいなとずっと思っていて…。

(追記:「東京」は、J-popバンドの方で今年初めてやってみました♪)

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くるりの曲で、今も一番聴いているのは、「ワールドエンド・スーパーノヴァ

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