つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

映画『土を喰らう十二ヵ月』

近隣のホールで毎月開催されている名作劇場

今月は、昨年秋の公開時に気になっていた『土を喰らう十二ヵ月』

雨にも関わらず、今回もたくさんの観客で大賑わいだった。

沢田研二が主演を務め、作家・水上勉の料理エッセイ土を喰う日々 わが精進十二カ月」を原案に描いた人間ドラマ。

長野の人里離れた山荘で1人で暮らす作家のツトム(沢田研二。山で採れた実やキノコ、畑で育てた野菜などを料理して、四季の移り変わりを実感しながら執筆する日々を過ごしている。そんな彼のもとには時折、編集者で恋人の真知子(松たか子が東京から訪ねてくる。2人にとって、旬の食材を料理して一緒に食べるのは格別な時間だ。一方、ツトムは13年前に他界した妻の遺骨を墓に納めることができずにいた。(「映画Com 」より抜粋。)

 

劇中、時々流れる小気味よいジャズと共に、四季折々の食で綴られている、静かで心地よい作品だった。

先ず、前回この名作劇場で観た『川っぺりムコリッタ』と同じく、頻繁に登場する、素朴な食事風景がたまらなく美味しそうだった。

冒頭での、炉端で焼いた熱々の小芋や、胡麻豆腐、ふろふき大根、ほうれん草の胡麻和え、等々。山やツトムの畑で採れた旬の新鮮な野菜ばかりであり、野菜に着いた土を洗う、その土の匂いも映像と一緒に漂ってくるようだった。

採れたての筍での若竹煮を、ツトムと一緒に頬張る松たか子の食べっぷりも、ほんと美味しそうで。

(ツトムの住まい。)

劇中の料理の数々は、料理研究家土井善晴さんが手掛けたそうだけど、映画のチラシによると、撮影前に開拓し、実際にスタッフが畑で育て、収穫した食材を使用したとのことでびっくりだ。その料理の多くは、土井氏の指導の下、沢田研二さんが作ったのだそう。

それらの料理は、ツトムが幼い頃、口減らしのため修業に出された、禅寺で習得した精進料理。

禅寺で修行中、ツトムがほうれん草の根本を捨てようとしたとき、僧侶が「一番美味しい部分なのにもったいない。」と言った場面で、自分も「そうなのか~。」と思った。

 

度々ツトムが訪れる、やはり一人暮らしの義母チエ(奈良岡朋子が作る味噌や漬物もとても美味しそうだった。

本作は、今年逝去された奈良岡朋子さんの遺作だったのだろうか。

ツトムと一緒に朝食を食べる場面でしか登場しなかったけれど、亡くなる前の自分の母と、面影が似ているように感じながら見ていた。

その義母チエもほどなく亡くなり、世間一般から見れば孤独死なんだろうけど、自然に還るという雰囲気で、悲壮感は感じられなかった。

義弟夫婦からの依頼で、義母チエの葬儀をツトムの家で執り行うことになり、真知子の手を借りて、次々に作るツトムの精進料理の数々。

それを葬儀に集まった村の人々が美味しいと感嘆している場面で、そのたどたどしい台詞回しから、村のおばさん達はロケ地でのエキストラなのかな?と思った。

その祭壇に飾る、チエの写真が特大だったのは面白かった。

 

美味しそうといえば、ツトムが飼い犬にあげていた餌は、窯で炊いたお焦げ付きのご飯に味噌汁をかけたもの。「焦げちゃってごめん。」と飼い犬に言っていたけど、そのお焦げ部分こそとても美味しそうで、私がいただきたいくらいだった。

私が小学生時代、夏休みによく遊びに行った母方の親戚では、やはり犬を飼っていた。その頃はドッグフードなんてなかったので、飼い犬が食べる餌は、同じくご飯+うどんに味噌汁をかけたもので、子供心にとても美味しそうに感じたのを覚えている。

今でも、ご飯に味噌汁をかけて食べたくなるのは、きっとその頃の影響だと思う。

映画の後半、ツトムが病に倒れ数日家を留守にしていたとき、その飼い犬の寂しそうな様子も切なかった。夕暮れ迫る景色を、窓辺でぽつんと見ていたり。

 

その窓辺から見える景色も美しいのだけれど、この映画の魅力は、旬の素材を生かした料理のほかにも、作品舞台である長野県・白馬村の、四季折々の美しい景色や自然が堪能できるところにもあると思う。

白馬村のサイトから拝借。)

自分も21歳の5月末の今頃、安曇野上高地旅行のため、友達と初めて松本駅に降り立ち、そこから見えた、雪を頂いた北アルプスの山並みの美しさは、いまだに忘れられない。それから何年か経って、やはり憧れだった白馬も行くことができ、画面に広がる雄大な景色を懐かしく感じた。

 

この作品で同じく惹きつけられたのは、二十四節気の言葉と添えられたその意味。

(「二十四節気」についての詳細はこちらに↓)

www.i-nekko.jp

馴染みのある一般的な「立春」や「啓蟄」「春分」などのほかに、「清明」「小満」などの言葉の意味も興味深かった。

ちなみに「小満」とは、今頃の5月21日で、すべてのものがしだいに伸びて天地に満ち始めるという意味だそう。

作品冒頭での「立春」から始まり、その言葉と共に意味も添えられていたので、季節の移り変わりがより際立っていて、味わい深かった。

 

主演の沢田研二も、口数の少ない作家役もぴったりで存在感いっぱいだった。

エンディングで、沢田研二の歌が流れていた。

ずっとファンクラブに入っている大阪在住の友達が、「昔より、太っている近年の方が声が良く出て上手くなっているのだ。」と言っていたのを思い出し、納得だった。

 

雪深い大自然里山での暮らしは、過酷で何かと不便だと思うけれど、こういった自給自足の生活こそ、人間にとって真の豊かさなのではと感じさせられた。

「食べることは、命をいただくこと。」

「身体は、日々の食べ物で作られている。」

というような言葉も、観ながら脳裏に浮かんできて、日々の食事の大切さを改めて感じさせられた。

と同時に、食を大切にし、料理記事を載せられている、ブロガーさんたちにも思いを馳せたりした。

 

来週の天気は、雨続きのようだけど、30日夜8時30分頃、東日本を中心に、国際宇宙ステーションISS )「きぼう」が見えるようなので、晴れてくれるといいなぁ。(西日本で広範囲に見えるのは、6 /1 みたい。)

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