観に行ったのがもう2週間も前になってしまったので、メモっておいた特に記憶に残っている部分を中心に感想を。
作品の舞台はアメリカ西部。
カナダは一度訪れたことがあるけど、アメリカ大陸にはまだ足を踏み入れたことがない私。
昔TVでやってた「アメリカ横断ウルトラクイズ」で冒頭、司会者の「ニューヨークへ行ってみたいかー⁈」との声に、ニューヨークなどの大都会もいいけれど、以前からアメリカでより心惹かれていたのは、その番組でも登場したモニュメントバレーなどアメリカ原風景のような広大な景観だった。
ルート66とかもドライブしてみたい。
西部劇でもよく目にしたそのモニュメントバレーと、グランドキャニオン。
中でもアーティストのPVなどでも使われていたアンテロープキャニオンなど特に訪れてみたい憧れの地だ。
この辺り♪(写真は旅行サイトから拝借しました。)
また、ヨセミテ国立公園も憧れている…
と、私の行ってみたい場所はどーでもいい話だけれど、
この作品、前評判で「アメリカ西部の雄大な自然美を堪能出来る」って部分にも興味を惹かれ観に行って来た。
ネバタ州の企業の街で暮す60代のファーン(フランシス・マクドーマンド)が、企業倒産の影響で、亡き夫との長年住み慣れた家を失ってしまい、一人車上生活を送るところから物語が始まる。
このファーンが「現代のノマド=放浪の民」として、季節労働の現場を渡り歩く日々を追った、評判通りまるでドキュメンタリーを見ているような作品だった。
世界中どこでも放浪の民は、自ら好んでその生活に身を置く人と、ファーンのように家を失ったため車上生活を送らなければならない人がいて、観ていて特に車社会のアメリカは、ファーンと同じ事情の人達がとても多いのだろうなと感じた。今は世界的にそうだろうけれど。
ただ、キャンピングカー生活と聞くと、一石二鳥で移動しながら旅行を楽しめると私なんかは気楽に考えていたけれど、実際ノマドの暮らしぶりは不便でとても過酷だということがこの作品を観てよく分かった。寒さが厳しい地域ではなおさら。
でも誰でも明日は何が起こるか分からず、地震大国に住んでいる自分も明日は我が身かもってことも頭をよぎった。
ファーンは困難に直面するたび、ノマドの仲間達から緊急時の対処法なども色々教わり、毎日懸命にそして誇りを持って生きて行く。
ファーンが行く先々で、同じノマドの仲間たちとのそんな心の交流場面も良かった。
出演俳優は、ファーン演じるフランシス・マクドーマンドと、ファーンが途中で出会ったボーイフレンドのデイブ役デビッド・ストラザーンの二人だけで、後は実際のノマド生活をしている演技素人の人達だったというのが驚きだった。
だからよりドキュメンタリー風に感じたのだと思う。
見ていると、まるでファーンがアメリカの風景美と共に、ノマド生活の人々の暮らしぶりを紹介する案内人のようにも思えて来た。
ノマドの人達のリアルな気持ちもよく伝わって来て。
一番心に残っているのは、そんなノマドの人々が語る胸の内だ。
流浪の民達の別れる時の挨拶は「さよなら」ではなく「また会おう」で、実際またどこかで会えるものだという台詞も印象的だったけれど、
ファーンと親しくなった、病で余命があと少しだという高齢の女性が言っていた、家族に囲まれ病院で死を迎えるより、この生活で感動の風景をまた目にしてから旅立ちたいという気持ちが心に響き共感出来た。
病院で家族に囲まれて亡くなるのが幸せな最後だとか、孤独死は不幸だとかは一概には言えないとずっと思っていたので。
家族関係も色々だし、誰もたくさんのチューブに繋がれたまま死にたくないし、孤独死で後から発見されたとしても、不幸だったかどうかなんてその胸の内は誰にも分からず幸せだったかも知れない。
それは周りから見た想像でしかないのだから。
可能ならば私もそんな絶景を目にしてからあの世に旅立ちたいと、そんなことを見ながら考えた。生きている間になるべく多くの感動に出合ってみたいと思っているのもあり。
それからラストの方で、ノマドの指導者みたいな男性がファーンに話した、自身の体験を交えた話には思わず目頭が熱くなったのだけど、ノマドの旅を続けながら亡くなった自分の大切な人と再会出来るって言葉にも意味があるように思え印象深かった。
それについて、暫し想像を巡らせてもみた。
孤独な旅のような生活。でも色々な場所で出会える美しい風景。
その中で自己と向き合いながら、その風景を大切だった人と一緒に見ているような、語り合っているような、自分を見守ってくれているような、そんな心境になれるのかも知れない。
ファーン自身、キャンピングカーを修理するお金を姉に借りに行った時や、同じくノマドだったボーイフレンドが息子夫婦の家に移ったその家に訪ねて行った時、どちらにも一緒に住まないかと誘われたけれど、ファーンにはもうノマドの生活の方が身に馴染んでしまっていたのがその様子から伺われた。
家のベッドの上ではなかなか寝付けずキャンピングカーに戻って寝た場面など。
孤独で過酷だけれど、自由なその生活。ファーンのように強くない私にはとても無理だろうけど心惹かれる部分もあり、映画のフライヤーでも使われている、荒野を一人歩くファーンの姿が凛としていていつまでも心に残った。
このコロナ時代から人の生き方も益々多様化するんだろうなと思った。
とはいいつつ、GW中一泊で帰って来た二男から、数年付き合っていた彼女と別れたことを聞かされた時は内心ちょっとショックだったけど^^;
その女性とは結婚するのだろうと思っていたので。
誰でも死ぬときは一人だけれど、息子には一緒に生きていけるパートナーがいて欲しいと思ってしまう。
まぁ、「風の時代」に移ったわけですし?
これからも元気で、人との繋がりは大切にして行って欲しいと母は願う。
余談だけれど、この作品で出演していた実際のノマドの人達のように、素人だからこそ心に訴え響いて来る場面で、かなり前に観た朝井リョウ原作『何者』の1シーンを思い出した。
『何者』は、大学生たちの就活模様を描いた作品だけど、映画では原作には出て来なかった実際に演劇をやっている若者達が登場するシーンがあり、その一人一人の演劇に対する熱い思いがこちら側にヒシヒシ伝わって来た場面が今でも心に残っている。
演技では無い心からの思いって、心を揺さぶられるものだと、その時も今回の映画でも改めて思った次第である(^-^)