つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『さざなみのよる』(木皿泉・著)~ドラマ『富士ファミリー』の前日譚

今週のお題「もう一度見たいドラマ」

 

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帯に「書店員が選ぶ泣ける小説第一位!」とあった、木皿泉・著『さざなみのよる』を読んでみた。

 

確かに、物語ラストに近づくにつれて涙腺が緩みっぱなしで、その辺りを通院している歯医者の待合室で読んだので、その後名前を直ぐ呼ばれ、「この人治療前から何泣いてんだ。」と不思議に思われなかったか心配だ(笑)

 

著者の木皿泉さんとは、和泉務さんと奥様の鹿年季子さんお二人による、ご夫婦の脚本家。

 

木皿泉と聞いて真っ先に思い出すのは、原作は未読だけれど2014年にBSプレミアムで放送された大好きだったドラマ、『昨夜のカレー、明日のパン』だ。

 

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www6.nhk.or.jp

 

番組HPにあるように、若くして夫・一樹(星野源)を亡くしたテツコ(仲里依紗)と義父(鹿賀丈史)の悲しみを乗り越える姿を笑いと涙で描いた作品で、毎回後半辺りに流れた、主題歌であるプリンセスプリンセスの曲『M』に余計泣かされたっけ。

 

テツコが義父に毎回「ギフ」と呼びかけるのも面白く、夫役の星野源が幽霊となって登場したり、脇役の隣一家に住む娘のムムム(ミムラ)などが出演した忘れがたいシーンが多く、他脇役の片桐はいりなど皆味のある役者さんばかりで、心温まる素敵なドラマだった。

 

 

今回読んだ小説『さざなみの夜』は、やはり木皿泉・脚本の2016年と翌17年のお正月に放映された『富士ファミリー』というドラマの前日譚だった。

 

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このドラマ『富士ファミリー』は、富士山の麓にある小さなスーパー「富士ファミリー」を営む三姉妹の内、亡くなったはずの次女ナスミ(小泉今日子)が笑子ばあちゃん(片桐はいり)の前に現れることから騒動が起こる、やはりほのぼのとした家族の話だった。

 

この小説『さざなみのよる』は、そのナスミが43歳で病気で亡くなるところから始まり、その一話毎に毎回語り手が入れ替わる連作短編集になっていた。

 

『富士ファミリー』でナスミは小泉今日子が演じていたため、読みながらどうしても小泉さんの顔が浮かんでしまったけど、ナスミは一見クールではすっぱな感じでも、実は懐が大きく温かい人柄なのが小泉さんのイメージと被っていた。

 

片桐はいりが演じた笑子ばあちゃんは、特殊メイクでもちょっと違和感があったけど^^;

 

この小説は一話毎に、ナスミの人となりの輪郭がどんどん立ち上がって来て、亡くなった後でもナスミはその言葉や存在と共に、家族や友人皆の心に大きく息づいているのが分かった。

 

それは、ナスミが亡くなった後に「富士ファミリー」に生まれた女の子の心にも。

 

その子が見つけた部屋の片隅にいる、「生きている蛾」と動かなくなった「死んでいる蛾」。その違いは一体何なのか。

それは、命が宿っているかいないかの違い。

この蛾も自分も、やがて宿っていたものが去っていくだけ。

 

「それは、図書館の本を借りて返すような、そんな感じじゃないだろうか。本は誰のものでもないはずなのに、読むとその人だけのものになってしまう。命が宿るとはそんな感じなのかなぁ、と思った。」

 

「本は読むとその人だけのものになってしまう。」って例え、いいなぁ。

それを色々なものに宿る命になぞらえているところも。

 

それは本に限らず、感情が揺さぶられる映画でも絵画でも歌でも、見たり歌ったりすれば、それにはその人だけのものになるような感覚、とてもよく分かる。

何でも、それを気に入った人の手に渡って初めて、そのものの命が吹き込まれるような。

 

最後の片桐はいりの解説も面白かったけれど、「目にみえないものを」という著者の後書きも心に残った。

 

「皆があまりにも目先の事しか見ていないようで、自分達は、時計では表せない時間の話を書く」ことを決めたそうだ。

 

使えなくなったらお終いという価値観を自分にも当てはめていないか。

数さえ集めれば勝ちという価値観だけでは、益々格差が広がって行くばかり。

人間は死んだら終わりじゃないと言いたい。

私自身亡くなった人からたくさんの知恵と優しさをもらってきた。

自分は時計の針じゃないという話は、コロナで社会が停止したことを体験した今ならたくさんの人に分かってもらえるような気がする。

 

 それらの後書き一言一言から、これからも読者に良い作品を届けたいという決意や気概が感じられた。

 

 著者の希望通り、私にとってもこの作品を読んでいる時は、空を見上げるような読書時間を過ごせたように思う。

 

ナスミが友達に別れ際かけたように、ナスミからの「うまくやりなよ!」って声が私にも聞こえ励まされたような気がした。

 

死を扱った物語なのに、カラリとした人柄のナスミのように、物語全体にジメジメ感が全くなかったのも良かった。

 

柱に埋め込まれたダイヤモンドのエピソードが特に心に残ったなぁ。

 

ということで、私の「もう一度見たいあのドラマ」とは、木皿泉・脚本の『富士ファミリー』と『昨夜のカレーと、明日のパン』であります(^-^)

 

 

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 (過去に箱根から撮った富士山)