つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

絵本にまつわる5つの物語『青い絵本』(桜木紫乃・著)

短編集『青い絵本』(桜木紫乃・著)

~岐路に立ち、惑う人々に贈る 喪失と再生の記憶~

絵本にまつわる短編集。セラピスト、作家、イラストレーターなどが主人公で、皆、著者の出身地と同じく北海道に住んでいる。

【目次】

卒婚旅行

なにもない一日

鍵 key

いつもどおり

青い絵本

どの話も心にすっとしみ入ってくるようで、静かな余韻の残る話ばかりだった。

またどの作品にも絵本が登場して、それがどれも魅力的であり、読んでみたいと思うものばかり。

それらの絵本を検索してみたら、著者名含め登場する作品は、全て著者が考えた架空の絵本だということが分かってびっくりだった。

(特に心に残った話をいくつか挙げていきます。)

『卒婚旅行』

この話で登場した絵本は、『ほら、みて』(サット・ハミルトン・作)。

開いたページに男の子が一人、湖を眺めている絵があるそう。

「ほら、みて。水がきれいだ。いつの間にかぼくは、こんなところまできたよ。」と始まり、あらすじが書かれている。

話の中で、「絵本セラピスト」という資格があることを初めて知った。

この資格を取得し、卒婚の計画を着々と進めていた主人公・晴美。この絵本は、晴美が初めて買った大好きな絵本でもある。

JR九州の豪華列車ななつ星の抽選に夫が当たり、二人で乗っているその情景で、「カタタンカタタン。」という、列車の振動音がリズミカルに挟み込まれていて、それが二人の会話の隙間を埋めているようにも感じた。

 

『鍵 key』

小説家だった夫が自死し、息子を必死に育ててきた書店員・寿々の話。

勤務先である、ひまわり書店が閉店する最後の日から話は始まる。

15年間働いてきたその書店で、小説家が生まれては消えていくさまを水際で眺めていて、小説家になってからの夫の置かれた5年間が、やっと理解できるようになった寿々。

編集者と作家が二人で書店を訪れ、ときには営業を伴い、どうかよろしくと頭を下げてきたということからも、実際の作家や編集者の苦労が垣間見られた。

この話に登場する絵本『鍵 key』とは、まだ父親になりたてだった夫が、息子にと買ってきた絵本。父が唯一息子に読んであげた絵本でもあり、息子はその絵本を、就職先の帯広へ向かう荷物の中に入れる。

ページをめくれば、さまざまな鍵のイラストの横に、その鍵を使って開ける扉がある。「この鍵は、よろこびの部屋の鍵です。」次は、「怒りの部屋」、同じように「かなしかったこと」「たのしかったこと」と続く。

ラストでの、寿々と息子のほっこりとした温かい会話に、読んでいるこちらも笑ったり泣けたりした。

 

『青い絵本』

この短編集の中でも、一番印象深かったのがこちらの表題作。この物語からは、静けさの中にも凛とした美しさや力強さをより感じた。

漫画家の背景画アシスタントとして暮らしている、45歳の美弥子が主人公。

ある日、美弥子の三番目の母親だった絵本作家・高木好子から、旅に付き合ってと連絡がくる。

3年間だけ一緒に暮らしたことがある二人は、離れ離れになっても、お互い良い関係を築いてきた。

支笏湖畔の高級なホテルに2泊して、そこで美弥子はやせ細った好子から、自分の最後の絵本になる、『あお』の挿絵を頼まれ、二人でその構想を練る。

そのときの月も青。月が照らす湖も青。

支笏湖は、『碧色』が美しい。空と水が力を合わせないとこんな色にはならないの。」

「ひとの心はいつだってブルー。華やかなブルーもあれば、重たく沈むぶルーもある。心が晴れやかなときのブルーには、どんな暖色も真似のできない輝きがあると思うの。」

という二人の会話なども心に残った。

この『あお』という絵本の最後のページは、

あなたはしっている

こころとこころの まじりあう

こうふくなしゅんかんを

と結ばれている。

この絵本には、血の繋がりなどは関係ない、母娘の幸福な瞬間が詰まっていると感じた。

その出来上がった絵本は、「とても上質な紙を使い、コットンの目地が見えるような印刷に仕上がった。」とあるように、この短編集自体も、このようにコットンの目地が見え、目次が透けて見える美しい用紙が使われていた。

ブルー系は私も子供の頃から一番好きな色。

なので、美弥子があらゆるブルーをかき集め、全力で取り組んで描くそれらの、「青」「蒼」「藍」「碧」などの色の違いを、想像しながら読んだ。

「空と水が力を合わせないとこんな色にはならない」という支笏湖の、その美しい『碧色』を私も一度見てみたいと思った。

そして、支笏湖の描写に憧れを持ったのは、20年以上前に読んだ桐野夏生の『やわらかな頬』でもそうだったと思い出した。子どもが支笏湖で行方不明になってしまう話だったのは覚えている。

 

また、表紙が青色で思い出すのは、数年前に読んだ、ベトナム戦争を絡めた『こんぱるいろ、彼方』(椰月美智子・著)という小説。

表紙の色であるターコイズブルーは、和名で「こんぱるいろ(金春色)」というのだった。そしてこの色は、話に登場するベトナムの綺麗な海の色でもあって。(この本は、よんばばさんとmarcoさんも読まれて、感想を教えて下さったのでした。)

 

いつもどおり』での、作家である主人公・小夏の、

「ふと今まで書いてきた主人公たちのその後を思った。彼、彼女たちは、ひとときも小夏の自由にはならなかったけど、自分たちで選びとった人生を、今もどこかで静かに開いている。」という思も、よく分かるような気がした。

私も、小説に限らず、ドラマ、映画、漫画でも、記憶に残っているそのたくさんの登場人物たちは、その世界の中で今もずっと生きているような気がしている。

だからなおさら、自分の手でたくさんの登場人物を生み出してきた作家たちは、よりその思いが強いんだろうなと感じた。

それからこの話には、以前行ったことがある、千葉県の写実絵画専門美術館である「ホキ美術館」が登場したのも、おっと思った。

 

著者の桜木紫乃さんは、絵本も出版されているようなので、この短編集に登場する架空の絵本も是非いつか作品にして欲しいと思った。

 

下書きにはまだ、前に読んだ何冊かの感想も残ってはいるのだけど、最近読んだばかりのこちらの感想を忘れないうちに記録しておきました。

(あ、自分のこのPC版ブログの背景も、青色だった♪)

早くもツツジが咲き、季節が進むのを年々早く感じます🌸