つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『アナベル・リイ』『タコやん』~怖い話と面白い話

アナベル・リイ』(小池真理子・著)

今年7月に刊行された、小池真理子の長編怪奇小説

著者のエッセイは1年前に『月夜の森の梟』を読んだけれど、小説では短編集『千日のマリア』以来久しぶりだ。

怪奇小説は、好奇心はあっても好んで読むジャンルではなく、夜だと怖いので、なるべく明るい時間帯を選んで読み進めてみた。^^;

 

主人公である悦子の、40年前からの回想記録として、物語が語られている。

悦子は、現実主義者で非科学的なものは一切信じず、大学時代男子学生から「女の軍人を連想する」といわれるくらい、感情を露にすることもない性格と序章に出てくる。そんな悦子が怪奇現象に巻き込まれていってしまう。

 

1978年、悦子は友人の富永多恵子に誘われ、その多恵子がママであるバー「とみなが」でアルバイトを始める。

そこに出入りしている客の飯沼は、悦子が密かに思いを寄せている男性。

その店では、若く綺麗な女優の卵・千佳代とも知り合い、悦子は千佳代からとても慕われる。

その千佳代は、『アナベル・リイ』の舞台劇で主人公アナベル役の代役に抜擢され、その演技で大失敗したことにより、ライターの飯沼と近しい関係になり結婚する。

だがほどなくして、千佳代は病に倒れあっけなく死んでしまう。

それから、悦子と多恵子の周囲で不可解なことが起こり始める…

というストーリー展開。

腑に落ちない点もあったけれど、巧みな情景描写や心理描写で、怖くてもぐいぐい物語の中に引き込まれた。

設定も、悦子は両親の持ち家である、古く広い屋敷に一人で住んでいたり。

そこに黒猫が餌を求めてやって来るようになり、その猫が敏感に霊の気配を感じとったり…と、背筋がゾワゾワっとしながら読んだ。(;´Д`)

 

女性からモテモテの飯沼は、その風貌から、著者の夫(作家・藤田宜永氏)をイメージされたのではと感じた。

この作品は、昨年亡くなられたその藤田氏の肺に癌が見つかった頃から書かれた、『月夜の森の梟』と同時期に執筆していたのそうで、怪談は日々の辛さを忘れさせてくれる、とのインタビュー記事を読んだことがある。

また、小池真理子さんのお母さんは、霊感のとても強い人だったそうで、子供の頃からそのお母さんの霊の話を聞いていたので、霊の存在は当たり前に信じているのだそう。

私も、一人の人間のそれまでのたくさんの思いが、肉体の死と同時にそれまでも無になってしまうことは無いのではと感じている。

 

とはいえ、自分は子供の頃から、怖いもの見たさで怪談話は好きだったけれど、今まで霊を見たことはないので、霊感が強くなくて良かったと思う。

最近でも、私が送った風景写真の一部に、顔が逆さまに映ってるように見えるよと、そのグループLINEの二人から言われたけど、私にはそれが分からなかったので。

自分の場合、見たくないものは見えないという、目や脳の仕組みなのかも。( ̄▽ ̄;)

 

作中、その当時ヒットしていた、リタ・クーリッジの「あなたしか見えない」の曲が流れる場面があり、私もリタ・クーリッジのハスキーボイスが好きで、昔この曲が入ったLPを購入したので懐かしかった。

ほか、当時流行った、ジョン・レノンの「ウーマン」や、シーナ・イーストンビー・ジーズエルトン・ジョンなどの曲も登場していた。

これらの曲や、悦子が勤めるバーでの情景描写などからも、その時代の空気感がよく伝わってきた。

月照ればあわれ

麗しのアナベルリイは私の夢に入る

また月が輝けば、

麗しのアナベルリイの明眸(ひとみ)が見える。

エドガー・アラン・ポーアナベル・リイ」より

アナベル・リイ』とは、エドガーアラン・ポーが、亡き妻をモチーフにして書いた詩だそう。

読み終えた後に振り返ってみると、恐怖というより、この小説全体に、もの悲しさが漂っている感じがした。

***

 

絵本『タコやん』(文・富安洋子/絵・南伸坊/福音館書店

ある日、しょうちゃんの家に、海からタコやんが「あそびましょ。」と訪ねてくる。

断っても、ドアの隙間から「ヌルリンチョ」と入って来てしまい、しょうちゃんと一緒にゲームや、公園でしょうちゃんの仲間たちともサッカーをして遊ぶ。

タコやんは、ゲームでもサッカーでも、その8本足で抜群の才能を発揮し、皆から尊敬される。

その公園に、犬を連れた威張ったおじさんが入ってきて…という、面白いお話。

夕方になり、皆とバイバイして海に帰っていくタコやん。

ラストは、ちょっぴり切ない気分に駆られます。

裏表紙の絵も、一人海を見つめるしょうちゃんの後ろ姿で。

 

可愛く素朴な絵が、いかにも南伸坊さんらしく癒される絵本です。

タコやんの動作などを表す、「ノタコラ、ペタコラ」「ステテテテン、とノックしました。」などの面白いオノマトペが使われていて、読んでいてリズムがあり楽しいです。

 

この絵本は、図書館と小学校で読んで、どちらでもわりと好評でした。

公園でのかくれんぼで、絵の中でタコやんはどこに隠れているのかを皆に問いかける箇所では、皆口々に言い当ててくれました。

感想で、タコをペットにしたいって子がいました。笑

8本足のタコやん。家にもひょっこり遊びに来てくれたら楽しそうだけど、その赤い姿を見たら、酢だこを連想し、食べたくなちゃいそう...