つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

映画『ベルファスト』

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俳優・監督・演出家など多岐に渡って活躍するケネス・ブラナーの半自伝的ドラマ。

北アイルランドベルファストに暮らす9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)は、仲の良い家族と友人たちに囲まれ、映画や音楽を楽しむ幸せな日々を過ごしていた。

しかし1969年8月15日、プロテスタント武装集団がカトリック住民を攻撃したことで、彼の穏やかな日常は一変。住民同士が顔なじみで一つの家族のようだったベルファストの街は、この暴動を境に分断されてしまう。

住民の間の対立が激化し、暴力と隣り合わせの日々を送る中、バディの家族は故郷を離れるべきか否か苦悩する。(あらすじ・解説は、シネマトゥデイより抜粋。)

 

大好きな映画、『ジョジョ・ラビット』を彷彿とさせるような、9歳の少年バディの視点で描かれている。

ある日平穏なベルファストの街中で、友達と元気にチャンバラごっこをしていたバディの目の前で突如激しい爆発が起こる。

その瞬間クローズアップされる、バディの衝撃と驚きの表情。

この作品はどうしても、ロシアの侵攻による今のウクライナ情勢と重ねて観てしまう。なので冒頭のこのシーンで、観ている間ずっと重苦しい気分で観ることになるのかなと思ったけれど、残酷な場面も特になく、

それよりも家族愛が前面に打ち出されていてそれが始終素晴らしく、観終わって多くの人に観てもらいたくなるとてもいい映画だった。

流れていた音楽も、明るい曲や哀愁漂う感じの好みの曲ばかりだった。

 

何といっても、少年バディ役を演じたジュード・ヒルの表情が、いつも生き生きと輝いていて、純真でとても可愛かった。

そして、バディの家族は皆揃って温かい。

その容姿といい魅力あふれる両親と、優しく物静かな兄と思いやりあふれる祖父母。

ジュディ・デンチが演じたおばあちゃんも、慈愛にあふれ存在感いっぱいだったけれど、特におじいちゃんは、バディの父親が、「昔から深い人だった。」と形容していたくらい、バディに語る言葉の一つ一つが観ているこちら側の心にも響いてきた。

「正しい答えが一つだけなら、紛争は起こらない。」等など。

宿題で、バディに先生の目をごまかすズルを教える場面も面白かった。

このほか随所にユーモアが散りばめられていて、クライマックスでの緊迫した場面でも、母親からの問いにバディが放った一言が可笑しかった。

(これから観られる方は、作品の中で流れるテレビCMに注目。)

バディの初恋も絡めて描かれていて、ラストの場面でバディとその女の子の場面も涙ものだった。

丁寧に描かれているのは、そんな平和な普通の人々の日常。

だからこそ、その日常がある日突然壊れ、慣れ親しんだ愛する土地を離れたくないというバディたちの嘆き悲しみを通して、今のウクライナの人々の置かれている状況が、想像だけではなく、よりリアルに感じられた。

 

北アイルランドにおける宗教紛争の歴史に詳しいわけでもなく、それと聞いて真っ先に思い浮かべたのは、U2の曲くらいだったけれど、家族のように仲良しだった隣人たちが信仰の違いにより、ある日を境に敵味方に分断されてしまう。

バディの家族はカトリックを攻撃する暴徒と同じプロテスタント側であり、そのプロテスタント側の苦悩もバディの家族を通して伝わって来た。

(北アイルランド紛争の歴史については、こちらのオフィシャルサイトに詳しく載っていました。)

belfast-movie.com

エンドロールでの、「この地を去った人、残った人、亡くなった人、その全ての人に捧げる」という言葉も、今の情勢でより深く重く心に響いて来た。

この映画が完成したときは、上映される頃にこんな世界情勢になっているとは製作陣も思いもしなかっただろうけれど。

 

そのエンドロールで日本人の名前を発見して、気になり調べてみたら、この映画のヘア&メークが日本人アーティストの吉原若菜さんだそうだ。

同じ監督作品での『シンデレラ』や『オリエント急行殺人事件』なども担当していたそうだ。字幕に日本人スタッフの名前を見つけるとオッと思い嬉しくなる。

 

主な登場人物は、北アイルランドベルファスト出身者がほとんどだそうで、祖父役のシアラン・ハインズもベルファスト出身だそうだ。主な音楽を担当したのも、ベルファスト出身のシンガーソングライターであるヴァン・モリソン

 

この作品は最初と最後、上空からベルファストの街並みを映した場面以外は、モノクロ映像だったけれど、それがより大切な故郷という意味でのノスタルジーを感じさせられた。

ロンドンへ出稼ぎに行っていて1、2週間に一度バディのお父さんが帰って来ると、家族揃って映画館や劇場へ行く場面も実にほのぼのとしていて楽しそうだった。

そのスクリーンに映る映画はカラーだったのも、その場面だけ際立っていて印象的だった。

一家が観ていた映画とは、恐竜映画だったり、私も子供の頃大好きだった『チキ・チキ・バン・バン』だったり。テレビでは『サンダー・バード』をやっていたり。

チキ・チキ・バン・バン』は、自分が小学生当時クラスでも話題になっていて、最初に観た洋画かも知れない。この映画で、ドイツのノイシュバンシュタイン城を知り、いつか行ってみたいとずっと憧れていたっけ。

なのでこれらの映像は、自分も郷愁をかきたてられて懐かしかった。

 

終盤、お父さんがかっこよく歌うシーンと、お母さんのダンスシーンも忘れがたくとても素敵な場面だ。

そのシーンでの曲、イギリスのバンド、ラブ・アフェアーの「Everlasting Love」が流れているこちらの映像を最後に♪

youtu.be

(第94回アカデミー賞脚本賞を受賞。)