つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『雨降る森の犬』(馳星周・著)を読んでみました。

 

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主人公は、父親を病で亡くし、母親との確執を抱えた中学生の広末雨音

不登校になった雨音は、長野の立科町に住む山岳写真家の叔父、道夫と一緒にその山荘で一緒に暮らすことになる。

道夫は愛犬のワルテルを飼っている。(表紙のようなバーニーズ・マウンテン・ドッグという犬種。)

隣の別荘に、正樹という高校生が時々やって来るようになる。

犬のワルテルも隣の正樹も、最初は雨音に対して不愛想で感じが悪い。

けれど次第に打ち解けていき、それぞれ家族の問題を抱えている雨音も正樹も、ワルテルの存在や蓼科の大自然の中で、次第に頑な心が癒されていく。

そして雨音は絵画に、正樹は写真に目覚め、二人とも道夫の指導のもと登山の魅力にもまっていく。

この作品は、愛犬や周りの人との触れ合いを通して雨音が成長していく物語だけど、犬のワルテル+道夫・雨音・正樹で、真の家族のような信頼の絆で結ばれていく過程が良かった。

 

 そして何と言っても、犬を飼うことの魅力がたくさん詰まった作品だった。

著者である馳星周さんの直木賞を受賞された『少年と犬』は未読だけれど、この1作を読んだだけで、犬を深く愛してやまない作家なのだということが分かる。

犬を飼ったことがない自分にとって、犬と暮らすことの素晴らしさが大変さも含めて色々伝わって来た。

特に、犬はその惜しみない愛情を人間に与えてくれる存在だということが。

犬に限らず、猫や他のペットもそうだと思うけれど。それは、

「すべての生き物は、寄り添っているだけで幸せな気持ちに包まれていく。」

という作中の言葉にも表れていると思う。

ほか、道夫の台詞に著者の気持ちが特に反映されていたのではと思う部分で、

「(犬は)見返りなど求めずに、家族を愛し、気持ちを汲み、辛い時や悲しい時は

ただ寄り添ってくれる。」

「動物が幸せなのは、今を生きているからだ。

不幸な人間が多いのは、過去と未来に囚われて生きているからだ。

おれはこいつらのように生きたい。」

などの台詞が心に残った。

私も犬のように、過去や未来に囚われず今を生きていきたい('◇')ゞ

ラスト辺りは、読んでいて、ペットを飼っていない私でさえ万感迫る思いだったので、愛するペットを飼っている読者なら尚更、涙なくしては読めなと思う。

 

 また、料理上手な道夫が作る料理がその過程も含め毎回とても美味しそうで、料理の点でも参考になる作品だった。

 

情景が浮かんでくるような豊かな自然描写も多く、中でも、雨に当たらずワルテルが自由に走り回ることが出来る、鬱蒼とした森へ皆で行く場面が良かった。

その森の濃密な香りや空気が行間から漂って来るようで、特に、薄暗い森に雲間から幻想的で荘厳な一条の光が差し込む場面など、絵画や映像で見られたらさぞ美しいだろうと思った。

 

ところでこの作品の舞台である長野県北佐久郡立科町は、蓼科高原蓼科山などは「蓼」という漢字だけれど、町の名前は何故「立」と表記されるのか調べてみたら、「蓼」という漢字が当用漢字に無かったからだそうだ。

この 蓼科高原には、私も昔夏の旅行で何度か訪れたことがあり、作中に出て来る、蓼科山、女神湖、白樺湖ほか、上高地などの地名もとても懐かしく、そして登ったことはないけれど、槍ヶ岳奥穂高岳明神岳、などの北アルプス連峰の名が出て来ただけでトキメキを感じた。

 本格的な登山経験は今までも、これからも無い私だけれど、踏破した者だけが見られるその景色や感動には興味があり、この作品でも雨音と正樹が道夫の指導の下、先ず手始めに近くの蓼科山を登ってみる場面がある。

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蓼科山

お椀を伏せたような形状の蓼科山は、見た目は大変そうでもないけれど、頂上付近に最難関の岩山があるそうだ。

その部分を登る時に出て来た「三点確保」という登山技術は、手足三点を確保して体を持ち上げて上に向かって行く方法だそうで、なるほどー、と参考になった。

参考になったといっても、自分がそれを実践してみることは無いのだけど^^;

私の場合の「三点確保」は、ごはん、味噌汁、漬物、がせいぜい(笑)

その蓼科山頂近くの岩山を踏破すると、後は平地で直ぐに頂上に着くという描写に、その部分を想像しながら自分も一緒に登山しているような楽しさがあった。

 

この作品を読んでいる時にちょうど、「グレートトラバース3」というテレビ番組で、蓼科山を登る回が放映されたので、実際にその難所である岩山を目にすることが出来た。

これは、アドベンチャーレーサーの田中陽希さんが日本三百名山を人力踏破する番組で、田中さんももちろん凄いけど、田中さんを映すカメラマンも相当大変だろうと、観ていていつも感心してしまう。

 

また、見た目と違い難所が多い山といって思い出したのは、こちら、2年前に数人で上高地を訪れた時のことだ。

 

tsuruhime-beat.hatenablog.com

 

この時、焼岳登頂組と上高地散策組の二手に分かれ行動し(私はもちろん散策組)、焼岳に登った人達から送ってもらった写真は、遠くから見た感じは、蓼科山と同じく穏やかな形状だけれど、頂上付近は全然違う荒々しい様子でびっくりしたのだった。

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大正池から見た、焼岳)

 

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(焼岳、山頂付近)

この写真は2年前のブログではUPしなかったけれど、こんな感じで、焼岳は活火山なので山頂付近は噴煙が上がっていたとのこと。

たどり着くまで大変だったらしいその山頂で、ペットボトル一本だけという軽装の50代らしき女性と会い、皆が話を聞いたところ、上高地近くに住んでいて、毎週一人で登りに来ているとか。それも凄い女性だなと感じた。

まるで、雨音の未来の姿のようだ。

 

  こういった好きな場所が舞台の小説を読むと、またそこに出かけてみたくなる。

蝉時雨の中、入道雲を見上げた時など特に。

 

話は全然違うけれど、昨夜、卓球女子団体の決勝を観戦していて、技の「チキータ」という言葉を何度も聞いていたら、ABBAの『チキチータを聴いてみたくなったw

youtu.be

久々に聴いてみて、心に響く歌詞だなと改めて思った♪