つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

『朝が来る』『街の上で』~5・6月に観た映画

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映画『朝が来る』

監督・河瀨直美 / 原作・辻村深月

 近隣の越谷市にあるホールでは、「名画劇場」として、約半年前に公開された映画が月末頃の二日間だけ上映される。

先月の上映作品は昨年秋に公開され、観たかったけど見逃してしまった『朝が来る』だったので、すかさず観に行って来た。

そういえば本作と同じ原作者の『ツナグ』もこのホールで観たっけ。

話題の映画だったせいか、結構観客も入っていた。

映画ポスターに「感動ミステリー」とあるけれど、ミステリーというより「感動ヒューマンドラマ」という感じだった。

 

 一度は子供を持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦が「特別養子縁組」という制度を知り、生まれたばかりの男の子を迎え入れる。それから6年後、幸せな家族の元に生みの母親から「子供を返して欲しい。」という電話がかかってくる。

というのが、物語の導入部分。

 栗原夫婦が不妊治療を諦める過程での、お互いへの思いやりや、「特別養子縁組制度」で赤ちゃんを迎え入れる場面など、物語序盤から涙腺が緩んで来る。

何故こんなに最初から胸を打たれるのか。

それは後で思い返してみても、心底役に成り切った出演俳優たちの迫真の演技に他ならないと思う。

登場人物たちのアップシーンが多く、特に佐都子役の永作博美さんの表情から、繊細な感情の動きがこちら側にも伝わって来て、つい感情移入して度々心を揺さぶられた。

夫役の井浦新さんや息子・朝斗役の子役の場面もまた然りで。

  中盤から挟み込まれる朝斗の生みの親である、蒔田彩珠が演じた片倉ひかりのエピソードも、中学生らしい純粋な恋心やその後の展開における心情が丁寧に描かれていて、栗原夫婦と対峙に至る、そうならざるを得なかった過程がよく伝わって来た。

それにしても、初潮前でも妊娠してしまう可能性があるということを知り驚きだった。

  養子縁組を仲介する「ベビー・バトン」の代表役である浅田美代子の演技も本当に自然で、ちょっとくたびれたような表情も温かみが滲み出ていて始終引き込まれた。

これらの登場人物たちの気持ちに寄り添い、その気持ちが切々と描かれていた。

 栗原夫妻が参加した、この「ベビー・バトン」の説明会シーンでは、実際に参加していた夫婦の方々も出演していたようで、まるでドキュメンタリーのようだった。

「養子にした子には、入学前までには養子であることを本人に知らせる。どちらか一方の親は離職をして、子育てに専念しなければいけない。」

などの約束を交わせて初めて養子を迎えることが出来る。

大きくなってから真実を知ったのではショックが大きいだろうから、早めに本人に知らせるということはいいことなのだろうと思った。

その時の浅田美代子さん扮する代表の、

「親側が子供を選ぶのではなく、子供が親を選ぶ場所にしたい。」

という言葉から、親より子供に対しての深い愛情を感じた。

 朝斗を育てて来た佐都子も、朝斗が物心ついたころから折に触れ、生みの親であるひかりの存在を「広島のお母さん」と話して聞かせて来る。

こんな栗原夫妻のような両親に育てられた子供は、本当に幸運な子供だと見ていて思う。血がつながっていようといまいと。

そして、血の繋がりって何なんだろうって改めて思った。

序盤、幼稚園での事件での佐都子の葛藤を見て、子供を信じてあげることについても、自分だったらどう言ったり行動していただろうと考えてしまった。

 

 緑の木々のざわめき、指の間から見る綺麗な夕日、部屋のカーテンを揺らす風のきらめき、そういった叙情的な美しい映像が挟み込まれる度に、重い話なのに心静かな心地にさせられた。

 観ながら、同じく養子縁組がテーマだった数年前のドラマ、『はじめまして、愛しています。』(遊川和彦・脚本)を思い出したけれど、こちらのドラマも色々考えさせられる作品だった。

 ラストシーンは、まさにタイトルのような「朝が来る」という希望が持てる素晴らしい終わり方だった。

エンドロールに流れた曲の最後に聞こえた朝斗の一言は、また胸にグッと来るものがあった。

 そういえば、ひかり役の蒔田彩珠さんは、今NHKの連ドラ『おかえりモネ』で主人公の妹役を好演しているけれど、前回の連ドラ『おちょやん』に出演していた若葉竜也さんが、この映画では、サラ金取り立て屋のちょい役で出演していたので、あっと思った次第('◇')ゞ

 

 

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映画『街の上で』

感想が遅くなってしまったけど、その若葉竜也が主演を務めた映画『街の上で』は、5月に拡大上映されたあと観に行って来た。

以前はてなのsmokyさんが、「最高に面白い映画」とのタイトルで感想を書かれていたので気になっていたのもあり(笑)。

期待し過ぎたせいか私はそこまでではなかったけれど、クスクス笑い程度に最初から最後まで楽しく観ることが出来た。

 以前観た『愛がなんだ』今泉力哉監督の作品。

下北沢の古着屋で働く荒川清(若葉竜也)の日常を描いた、ほのぼのとした作品だった。

下北沢でオールロケとのことで、お馴染みの下北沢の街並みがずっと映し出されていた。

とはいっても、私は下北沢を全然熟知している訳ではないので、観ながら馴染みのライブハウス近辺にも古着屋さんがたくさんあったなぁという程度だった。

荒川清役の若葉竜也が、素朴で不器用などこにでもいそうな、今どきの青年役にぴったりでとても好感が持てた。

一方的に彼女に振られたり、急に自主映画に出演依頼され、読書をしている姿を撮られるだけなのに役作りを頑張り、却って本番ではカメラを意識し過ぎて上手く行かなかったり。

そこかしこに、ユーモアや映画愛が散りばめられていた。

最初古着屋に来た、変な若いカップルとそのやり取りも面白かった。

今思い返しても一番好きなシーンは、自主映画の衣装スタッフである城定イハ(中田青渚)の部屋で主人公がイハと互いの過去の恋バナなどを、延々と打ち明け合う場面。

ドキュメンタリータッチのようにその会話がとても自然で、お互いに友情が芽生え親近感が増して来る様子がよく伝わって来た。

サッパリとした性格の役どころの中田青渚さんも好感が持てたし、男女間でも、こういう友情ってとても大切な関係だなって思わせてもらえた場面だった。

成田凌が、俳優役として登場していたのも面白かったな。

 

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