つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

映画『約束の宇宙(そら)』

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~シングルマザーの宇宙飛行士と娘の絆を描いた人間ドラマ~

待望の任務に選ばれるも、キャリアと娘への愛情のはざまで葛藤する女性を描く。

監督は『ラスト・ボディガード』などのアリス・ウィンクール、音楽は坂本龍一が担当。

主人公を『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』などのエヴァ・グリーン

欧州宇宙機関(ESA)で日々過酷な訓練に励んでいるフランス人宇宙飛行士のサラ(エヴァ・グリーン)は、夫と離婚し、7歳の娘ステラ(ゼリー・ブーラン・レメル)と二人で暮らしていた。

ある日、サラは「Proxima(プロキシマ)」と呼ばれるミッションのクルーに選出される。長年の夢がかなう一方で、一度宇宙へ飛び立つとおよそ1年もの間、まな娘と離れ離れになってしまう。

(解説・あらすじは、シネマトゥデイより抜粋)

 

 宇宙飛行士が題材のテーマでも、この映画は私が大好物である宇宙から青く輝く地球の映像など宇宙空間の場面はほとんどなかった。

何故なら、宇宙飛行士に選ばれ、宇宙へ飛び立つまでの訓練の様子と、離れ離れの主人公が娘を思う葛藤を中心に描かれているからだ。

 

男性社会の宇宙飛行士の世界の中で、女性宇宙飛行士の立場は、周りからの目もその訓練の様子でも男性よりずっと苦労が多いということが伺われた。

 

子供の頃からの夢だった宇宙飛行士として飛び立つ日が実際に決まり、嬉しさも束の間サラは元夫に愛娘を預けて、遠く隔離された訓練場へと向かわなければならない。

訓練中も娘とほとんど会うことが出来ず、宇宙へ飛び立てば1年間は離れ離れだ。

父親の馴染みの全くない土地で暮らし始める娘のステラ。

転校先の学校では勉強について行けずいじめに遭ってしまう。

そういう娘の様子に電話でしか会話出来ず、心配を募らせるサラの胸の内が痛いほど伝わって来た。

母親がそばにいなく、ましてや危険と常に隣り合わせの宇宙にもう直ぐ飛び立ってしまうステラの心情も。

約300人のオーディションの中から選ばれたそうな娘役のゼリー・ブーラン・レメルは、寂しげなその哀愁を帯びた表情含めとても可愛い女の子だった。

 

そして、ロケット打ち上げまでの厳しい訓練の日々の様子が詳しく描かれていたので、改めてその苦労が分かり、その訓練内容も興味深いものだった。

男性クルー達と共に連日厳しい訓練に立ち向かうサラ。

重力をかける回転する訓練で、「今9Gだ。肋骨折るなよ」などの台詞で、かなり重力がかかると肋骨も折れてしまうほどなのかとびっくりだった。

毎日15キロのランニングは楽々こなしているように見えたけど、無重力訓練のための水中作業は如何にも苦しそうで大変なのだなぁと感じた。

また宇宙での無重力空間に慣れるため、日常生活でも本やテレビを逆さまの状態で観たり。

 

そうした厳しい訓練を共にしている男性クルー達とも日増しに連帯やお互いをかばい合う絆が深まって来るのも感じられ、最初は女性を見下す嫌なヤツなのかなと思っていた男性クルーが娘のことで悩むサラに言った、

「完璧な宇宙飛行士などいない。完璧な母親がいないのと同じだ。」

という台詞がとても心に残った。

 

そうなのだ。この作品を見ていると、完全無欠そうに思える宇宙飛行士も実は皆様々な悩みを抱えた人間なのだということが分かって来る。

 

期待した美しい宇宙空間はあまり堪能出来なかったけれど、映画館の大きいスクリーンで観られて良かったとつくづく思える作品だった。

それは訓練の一環としての、森でのキャンプシーンなど。

美しい森の自然と夜の静寂がスクリーンに広がる空間。

そこでクルー達が順番に即興の詩を語る場面など、坂本龍一の癒される音楽も静かな雰囲気を醸し出していて、見ているこちら側も何とも穏やかな気分になった。

 

また、サラが森の中へ雨の音や風の音を録音しに行く場面が出て来る。

宇宙飛行士が宇宙にいる間、そういう地球上での自然の音が恋しくなるのだそうだ。

それは、地球を離れた者にしか分からない感覚だということが分かった。

そして、飛び立つ前に周りにいる人たちの匂いなども務めて記憶しておこうと嗅覚にも

敏感になって行く。

そういう宇宙飛行士の一連の心理の過程が、この映画で分かったことがとても新鮮な気分だった。

私物として宇宙に持って行けるのは、ほんの靴箱程度の大きさで、「あなただったら、何を入れて行く?」と問いかけるような台詞に、思わず自分だったらと考えてしまった。

バドミントンのシャトルや娘のブレスレッドを入れるサラ。

また、宇宙に飛び立つ飛行士は皆子供達に手紙を書いておく習慣があるそうだ。

こうした一連の行動全てが、まるであの世へ旅立つ準備にも似ているように感じた。

地球から離れるということはそういう境地にもなって行くのだろうなぁ。

 

宇宙に飛び立つ瞬間のロケット内でのシーンは、2年前に観た『ファースト・マン』での同じシーンを思い出した。

娘の写真を目の前に、発射する時の振動が伝わって来る場面は、自分もスクリーン上のサラに同化しているような気分になり、こういう宇宙に向かって飛び立つ場面はいつも万感胸に迫る心地になる。

 

エンドロールでは、今まで宇宙へ飛び立った女性宇宙飛行士の写真が映し出されていた。

その中にはもちろん、家族と一緒の山崎直子さんの写真も。

同じ日本人としてとても誇らしく感じた。

それにしても、今まで搭乗した女性の宇宙飛行士は数少ないんだろうな。

他に映った女性飛行士はロシア人の方が多かったけど、小さな子供を残して皆何度も宇宙へ飛び立った経験があるのには驚いた。

その中でもシングルマザーのサラは、他の女性宇宙飛行士に比べてより精神的にも大変だったのが伺える。

さすが監督が女性だけあって、そういった細やかな目線で作られた作品だと思った。

 

主演のエヴァ・グリーンは、以前『ダンボ』や『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を観た時に、かなり個性派女優というイメージだったのだけれど、今回、凛とした宇宙飛行士の姿と娘への温かい眼差しなどで見せる笑顔も素敵で、とても好感が持てた。

 

将来、自分が生きている間にもし宇宙旅行へ行ける時代が来たとしても、打ち上げ時にかかる重力や宇宙酔いには耐えられないだろうからとても無理だろうな。

 

そういえば以前、『宇宙に行くことは地球を知ること』という野口聡一さんと矢野顕子さんの対談集を紹介する書評に書いてあったのだけど、宇宙が大好きな矢野顕子さんは宇宙飛行士になるのが夢で、地球に帰還着水した時に泳げることが必須と知り、水泳を習い始めたのだそうだ。

そこまで考えて水泳を始めるなんてすごいなぁと思った。

 

私は水泳も苦手だけれど、宇宙から青く輝く地球は是非見てみたいし、無重力も体験してみたい。

それにこの映画でもあったけれど、宇宙空間では身長が約5cm伸びるという話も、身長が若干縮んでしまった私には羨ましい('◇')ゞ

 

映画館を出て、外に吹く風や木々の緑に自然に意識が向いていた。

 

 

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