浦和美園と言えば埼スタの最寄り駅であ~る。あまり足を運んだことはないけれど。
この映画館では今年のお正月、年始帰りに「スターウォーズ」を観たっけなぁ…
と感慨にふけっていたら、座席で飲んでいたドリンクにむせ、一瞬咳が出てしまった。
するとすかさず、斜め前にいらしたおば様がもっと前に席を移動してしまった。今の時期は特にそうだよなぁと思う。
それでちょっと思い出したのが、昨年平日に映画を観た時、やはり客席は10人程しかいなくスカスカだったのに、後から入って来たカップルが私の直ぐ隣に座ったことだ。
「こんなガラガラなのに、何故隣に?!」と思い、お菓子を食べる音も気になり出したので、映画が始まってから隣の席に移動したっけ。
チケット購入時間がたまたま同時で、向こうも同じように思ったのかも知れないけれど。
どこでも、がら空きの場所でも直ぐ隣に来る人のことを、「トナラー」というらしいことを後で知った。
映画館では前後左右は座れなくなっているので、さすがに今はトナラーにはなれないけれど。
と、前置きが長くなってしまった。
この『幸せへのまわり道』は2019年アメリカの映画で、マリエル・ヘラー監督。
同じタイトルの作品が何年か前にもあったようだけど、この映画の原題は『A Beautiful Day in the Neighborhood 』(ご近所の美しい日)だそうだ。
雑誌「エスクァイア」に1998年に掲載された新聞記者ロイド・ボーゲルによる記事を映画化。
ロイドと当時子供向け人気番組の司会者として大人気だった、フレッド・ロジャースとの交流や家族との間で育まれた友情を描く実話に基づいたヒューマンドラマ。
妻と生まれたばかりの子供と3人で暮らす雑誌記者のロイド・ボーゲル(マシュー・リス)は、姉の結婚式で、絶縁していた父親ジュリーと再会してしまい、父の言葉にかっとなり殴り合いの喧嘩になってしまう。
ロイドは、病気の母親と自分達子を捨てて出て行った父親をずっと憎んでいた。
その時の喧嘩の傷跡が顔に残ったまま、ロイドは上司からの命令で、子供向け番組の人気司会者フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)を取材する。
ロイドは辛らつな記事を書くことで有名で、ロイドからの取材は著名人皆から疎まれていたけれど、唯一フレッドだけは彼の取材を進んで受け入れる。
取材相手が子供番組の人気司会者ということで、最初は気が進まなかったロイドだけれど、対話を重ねていくうちにフレッドのその人柄に触れ、頑なだったロイドの心も次第に解けて行き…
というストーリー展開だった。
心地よい音楽と、ニューヨークなどの実際の風景が、ジオラマの風景を交えて描写されているのが子供向け番組撮影のシーンと相まってほのぼのとしていた。
この、トムハンクスが演じるフレッド・ロジャースとは、1968年から2001年にかけてアメリカで放送された子供番組「Mister Roger’s Neighborhood 」で絶大な人気を誇っていたそうだ。
映画のエンドロール最後にご本人の映像が登場するけれど、トム・ハンクスが本人をかなり研究し成り切っているのが素晴らしかったようで、この役でアカデミー賞助演男優賞候補に。
私もこのフレッドさんや番組を見て知っていたら、きっともっと感動したのではと思うと、見たことがなくて残念だ。
ミニチュアの街並みとセサミストリートに出て来たようなマペットを使い、フレッドが優しく語り掛ける番組だったようだ。
このフレッドがいかに当時国民から愛されていたのが分かる場面が、ロイドと一緒に乗ったニューヨークの地下鉄の中で、フレッドに気づいた観客が皆でこの番組の主題歌らしい曲を一斉に歌い出すシーン。
「ご近所さんになりましょう」というような歌詞含め楽しく温かい歌だった。
フレッドはロイドに会った途端、その顔の傷からもロイドが抱えている葛藤に気づいてしまうけど、このいかにも非の打ちどころが無く、まるで聖人のようなフレッドも、実は人から受けるイメージとのギャップに悩んでいて、2人の息子との関係は良好ではなかったということが会話の中から分かって来る。
自分の中に湧き上がる怒りに対処する方法を、フレッドがロイドに伝える場面があったけれど、それはピアノの低音部分をバンバン弾いたり水泳に没頭したり等、フレッド自身は常にそれらを実践して、感情をコントロールするのに役立てている。
フレッドはレストランでもロイドに、愛する人を思い浮かべてお互い1分間黙することを提案する。
その場にいた他のお客も話すのを止めるなど、ちょうど1分間音が無く映像だけの穏やかで不思議な時間が画面に流れたのも印象的だった。
それも、瞑想のような効果があるものなんだろうなと感じた。
カッとなったら深呼吸したり心の中で何秒か数えると、怒りが和らぐとの対処法は私もきいたことがあるけれど。
フレッドはテレビ番組でのインタビューシーンで、子育てで重要なのは、「自分もかつて子供だったことを忘れないことだ。」と言っていたけれど、本当に、大人になるとつい忘れがちだけれど、子供時代は子供時代で誰にでも様々な悩みがあったと思う。
そしてこの人気番組は、「死や戦争や離婚」などのシリアスな内容も扱っていたというのが他の子供向け番組と違っていたところで、このフレッドさんが、子供を子供扱いせず、一人の人間として真摯に向き合っていたんだろうなということが伝わって来た。
このロイドとフレッド二人の友情も良かったけれど、その二人をしっかり支えていたのは、それぞれの良き妻だったということも分かり温かい作品だった。
それはそうと、春頃、新型に感染したとのニュースが報道されていたトム・ハンクスご夫妻。無事完治されて良かった!
前回観たトム・ハンクス作品は、先月BSで放映された『ハドソン川の奇跡』だった。
こちらは、劇場公開中見逃して観たかった映画であり、評判通りの感動作だった。
こちらもラストのエンドロールで、実際、操縦されていたその後の機長が搭乗者たちと再会した時の映像が登場したけれど、その映像にもウルっと来たなぁ。
これからも健康に気を付けて、バンバン活躍して欲しいものだ。
ところで、今年のベネチア国際映画祭が無観客で開幕されたとの記事を昨日目にした。
日本からは黒沢清監督の『スパイの妻』が最高賞の金獅子賞を競う部門に出品されているそうだけど、その開幕式では世界8映画祭の代表が、今深刻な影響を受けている映画館への支援を訴えたそうだ。
審査委員長のケイト・ブランシェットさんも、
「隔離生活ではストリーミングに支えられたが、大事なものが欠けていた。見知らぬ人達が暗闇に集まり、経験や出来事を共有することだ。」
と述べ、映画館への来場を呼びかけたそうだ。
私も先月は気になっていた新作映画を色々見逃してしまったけれど、映画館内は無言だし、イオンシネマなど外の空気を客席に循環させるなどの対策も色々取っているので、もっとお客が増えて行けばいいなと思う。