寺地はるなの小説を読んだのは今回で二度目だ。
前回読んだのは『大人は泣かないと思っていた』で、心に残った言葉をどこかに書き残しておきたいと思い、このブログを始めるきっかけになった小説だ。
今回の4月発売の新作『夜が暗いとはかぎらない』も図書館にリクエストして読んだので、やはり忘れないうちに書き残しておかなければ('◇')ゞ
だけど、図書館にリクエストした小説って、読み終えてからやはり買っておけば良かったと思うほど手元に置きたくなる作品が多いので、この小説も文庫本が出たら購入しようかと思う。
逆に購入した書籍は、買ったことで安心してしまいなかなか読まなかったり、途中でほったらかしにしてしまうのもあるのだけど💦
この小説の舞台は、大阪近郊の暁町。この町の、古くて閉店が決まっている「あかつきマーケット」というスーパーマーケット界隈を中心に、様々な年代の普通の人々の話が展開していく短編集だ。
このマーケットには、表紙の絵のような、童話「赤ずきんちゃん」をイメージした着ぐるみのゆるキャラ、「あかつきん」というマスコットがいて、そのあかつきんがある時失踪してしまい、その後町のあちこちに出没しては人助けをする謎の行動が、短編の情景描写としても時々登場する。
前回読んだ小説は、同じ短編集でも主人公である青年を軸に、その青年を取り巻く一人一人の人間に焦点を当てて描かれていたけど、今回の小説では、登場人物の人生が交差しながら次々に主人公が移りかわり、リレータッチで話が進んで行く。
それは、子育てや結婚生活、恋愛や毒親等の家族問題、友達がいない孤独等、暁町に住む老若男女様々な人が抱える人間の普遍的な悩みについて描かれ、各回の話の終盤には希望や光が与えられて、どの話にも心にグッと来る台詞が多く、毎回目頭が熱くなった。
作者の寺地さんは、人々へ向ける温かい眼差しと、心に寄り添う優しさがとても溢れている作家だから、こんなに切なくて温かい小説が書けるのだろうとつくづく思う。
お話は三部構成に分かれていて、目次は色に関係したタイトルも多く、それぞれの色の情景が目に鮮やかに浮かんで来て、それも素敵なのです。
中でも特に心を揺さぶられたのは「バビルサの船出」。
ここからはネタバレになってしまいますが・・・
一人暮らしの祖父と高校生の和樹との対話の中で、和樹は中学時代の同級生が事故で亡くなったショックな気持ちを祖父に打ち明ける。和樹はその亡くなった同級生である不良男子と美術の時間に一度だけ絵について忘れられない対話をしたことがあった。
亡くなった人の魂が帰って来るお盆について、色々訊ねる和樹にかけた祖父の言葉。
「けど、生きている自分を大事にするのが一番の供養やと思っている」
例えば、ばあちゃんから教えてもらったやり方で料理を作ること。それを食べて今日も明日も生きていくということ。ばあちゃんがしていたのと同じように花を飾ること。(中略)
ばあちゃんだけでなくて、今までの人生でかかわった人全部が自分の一部だ。好きな歌を歌っていた歌手、かっこよかった俳優、仕事を教えてくれた上司、通りすがりの人がしてくれた親切。そういうも全部、自分の中に取り込んで生きとる、とじいちゃんは言う。
死んだ人間は、小さいかけらになり散らばって、たくさんの人間に吸収され、生きている人間の一部になる。
「その同級生と喋った記憶も、和樹という人間の一部になっとるやろ、きっと。お前が、明日も明後日も、自分を大事にしていくならそれでええんとちゃうか。」
私ぐらいの年齢になると、親が亡くなるのは順番だからしかたないとしても、若くして亡くなった友人や従兄などに思いを馳せる時、この供養についての祖父の言葉がとても胸に沁みた。
ここまで書いて、5年前の夏に亡くなった高校時代の友人の誕生日が、明日なのをふと思い出した。
また「はこぶね」で、勝気な祖母の元、いい娘を演じていた母親のようにはなりたくないと思っている少女みれに向けて、母からは愛されなかった叔母が言った言葉。
「そう、みれの未来も、心も身体も時間も全部、自分のもの。他人の期待に応えるために生まれて来たわけではない。他人に渡したらあかん。」
「私の人生は私のもの。胸を張って言えるのだったら、もうそれだけでじゅうぶん。それ以外のことは、後から付いてくるから大丈夫。」
「青いハワイ」では、両親が離婚してしまい、現在歳の離れた恋人との不安定な関係について悩む瑛子の言葉。
「たしかな関係」なんてどこにもない。私はもう「ずっと」を願うような子供ではない。
と思っていた瑛子が突然気が付く。
「ずっと」は初めからそこに存在するわけじゃない。一瞬一瞬を積み重ねて作って行くものなのだ。
他の話にも
一色で塗りつぶせる単純な人間なんかいない。澄んだ色、濁った色、優しい色、きっぱりとした色、あらゆる色が一人の人間の中に存在しているのだ。
など印象に残る言葉が満載で、「あかつきん」が主人公のラストで、この小説のタイトルの意味がまた胸に響いて来る。
私が映画を観たり、本を読みたくなるのは、色々な人の人生に触れその考えを知ったり、その登場人物達と一緒に笑ったり泣いたり、生きている間に出来るだけ心を揺さぶられる体験をしたいからなんだと改めて思う。
と言ってしまうと、それほどたくさん観たり読んだりしている訳でもないのですが。
寺地はるな作品は、また色々読んでみたいと思いました。