つるひめの日記

読書、映画、音楽、所属バンド等について日々の覚え書き。

あなたは、誰かの大切な人

 

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原田マハ原作の『あなたは、誰かの大切な人』を読み終えた。

原田マハの小説は前回初めて読んだ『星がひとつほしいとの祈り』が良かったので、今回が2作目だ。

 

今回も短編集で、六編ともフリーランスなど仕事を頑張っている独身女性が主人公のお話。歳を重ねて色々な人生経験を積み、寂しさや不安を感じながらも、大切な人の存在に気付いた時の温かい気持ちを描いた、どれも心に沁みるお話だった。

 

私は特に、旅でたまに会う女性同士の友情を描いた、「波打ち際の二人」が良かったかな。相手の人生に対するさりげない思いやりが、やわらかな関西弁と共に心に響いた。

 

美術館勤務を経て、キュレーターの仕事もしている作者らしく、アート関係の仕事についている主人公が多く登場して、風景の一枚を切り取ったような絵画の映像が浮かんでくる、美しい風景描写も印象的だった。

 

『月夜のアボカド』の中での、何に幸福を感じるかは人それぞれだけど、家族でも、恋人でも、友達でも、自分が好きな人と一緒に過ごすこと。好きな人と食卓で向かい合って、おいしい食事を共にする。笑ってしまうほど単純でかけがえのない、ささやかなことがほんとうは何にも勝して一番の幸福ではないか、との台詞も良い。

私は、学生時代から仲間内でバカなことを言い合って大笑いする瞬間が一番幸福を感じていたような気がするけど、確かに食事を共にする何気ない日常もそうだなと思う。

 

最後の、フリーライター瀧井朝世さんの解説もとても良かった。

解説の文から抜粋すると

「だから、どんなに辛い人生だって、あなたには絶対、一人は見方がいると思っていい。それは、自分自身という最強の見方だ。自分は自分の大切な人。あなたを大切に思っている人は必ずいる。このタイトルは、著者から読者への真摯なメッセージなのである。」

 

ここまで読んで、前に何かで読んだ忘れられない言葉を思い出した。

それは、他人に自分を理解してもらえなくても、自分自身が分かってあげればそれで十分ではないかってこと。自分の人生を最初から全部知っているのは自分自身だけなのだから。その時の自分を支えてくれた言葉だ。

 

あ、何か自分のキャラではない真面目な話になっちゃったな(笑)

 

この短編集の中では、外国が舞台になっている作品も素敵だ。

イスタンブールで朝主人公が目覚める時耳にするのは、礼拝堂であるモスクからの流れて来るイスラムの礼拝の呼び掛け、アザーンの声。

このアザーンの哀調あふれるメロディに感動したとの描写に、私も、以前代々木上原にあるイスラム教寺院である「東京ジャーミー」を見学に行った時に、トルコ様式のブルーモスクの美しさと共にアザーンの声を聴いて、この主人公と同じように感動したので、この部分を読んで嬉しくなった。

 

子供の頃からアラビアンナイトが好きだったからか、見学後、このアザーンの調べに魅せられ、家に帰ってからも検索して暫し聴いていた。この主人公が言うように、「アザーンには心の琴線に触れる不思議な引力が感じられる」とは、まさにその通りだと思った。まだ見ぬ異国情緒を感じるからなのか。

 

その後、9・11が起こり、テロを警戒した欧米マスコミからのイメージ操作が広がり、日本でもイスラム教全体が悪との噂が広まり、あの代々木上原のモスクで親切に案内してくれたムスリムのおじさんも被害を被っているのではと大いに同情したものだった。

 

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 (東京ジャーミーの礼拝堂)

 

 メキシコが舞台の『皿の上の孤独』では、主人公の仕事での大切なパートナーである建築家が、世界で一番行ってみたい場所であるルイス・バラガン邸に、彼の代わりの目となって訪ねる話だが、このバラガン邸内外の描写もとても美しく、私も元々建築物に興味があるので、この目で見てみたくなり思わずネット検索してしまったほどだ。

 

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( ルイス・バラガン邸)

日本人の建築家だったら絶対使わないような配色で、壁の色を際立たせ、空間にリズムをもたらしている。派手な色なのに、どこまでも上品な色使いが、このバラガン建築の特徴だそうだ。

 

トルコのイスタンブールもメキシコも憧れるけど、たぶんこの先も行けないとは思うけど、小説の中で主人公と共に旅気分も味わえた。

 

 

これを読んで下さったあなたも、きっと誰かの大切な人、ですね(^^♪

 

(以上画像はネットからお借りしました。)